STORY 02

子どもに愛情をそそぎ、
多様な機会を与える場。

IQよりEQを育むことを大切に

子どもたちに愛情を注ぎ、多様な機会を経験できる場として、子どもたちの生きる力を育むため、STORIAでは子どもたちの自主性を重視している。どんな自分でも受け止めてくれるという安全基地の中で、「やってみたい」という気持ちに応えられる多様な機会を提供することで、自己や他者の感情を理解したり、自分の感情をコントロールする力など人間の土台となる力が身に付く。そして何かをやり抜くことで自信にもつながる。「『IQ(知能指数)』も大切ではあるが、その前に『EQ(心の知能指数)』を育む」ことが、佐々木さんが最も大切にしていることだ。
「人の感情を汲み取ったり、自分の感情をコントロールしたりする力を示すEQは、本来家庭で育まれます。しかし一人親家庭の親は子どもと向き合う時間を十分に確保することができず、子どものEQは育ちにくい場合がある。それをサポートするのが、STORIAの主な役割です」
EQを育む象徴的な活動が「体験学習」だ。「子どもたちがやってみたいと思うことを、自分たちで自ら企画して実現する学習方法です。大人は見守りながら、必要なとき以外は手を出しません。子どもたちがそれぞれの強みや得意なことを生かしながら、これまでさまざまなコンテンツを企画してきました」

「やってみたい」を叶える体験学習

2018年に行なった起業体験「子どもカフェ」は、子どもたちの「お金を稼いでみたい」という一言から始まった。調理・販売・経理を分担し、メニューを決め、本物のカフェとしてお客さんに提供する。算数が苦手な子も一生懸命原価計算をするために電卓と向き合った。原料を安く仕入れることが利益アップにつながることに気付き、農家に直接交渉に行く子もいた。料理が得意な子が調理を担当し、お客さんの喜ぶ姿が自信につながった。「お金をいただくからにはお客さんに喜んでもらいたい、という当初からあった軸がブレることなく最後までやりきったときは、子どもたちの中で眠っていた可能性が大きく開いた瞬間だったと思います」

「男たちの人生相談」というラジオ番組は、学校に行けないなど生きづらさを感じている子どもたちが、自分だけでなく周りも不安を感じながら生きているのかもしれない、と思ったことがきっかけで始まった。4人の男の子がパーソナリティを務め、悩みを抱える大人から番組に寄せられる手紙を読み上げ、それに対して共感し、言葉を贈る。これまで子どもたち自身が痛みを抱えながらも、多くの大人たちから受け止めてもらってきたからこそ、人の痛みに寄り添い、気遣えるのだということが伝わる番組だったと、佐々木さんは振り返る。

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「子どもカフェ」の様子。企画段階の打ち合わせも子どもたちが中心となって行う

大人が子どもから学ぶことも

現在、ボランティアやプロボノ(職業上、持っている知識やスキルを生かして社会貢献する人々)を含め100名を超えるスタッフが、それぞれ仕事をしつつ、さまざまな思いを胸に活動を支えている。体験学習のほかにも、平日は宿題を手伝ったり、一緒に調理して食事をしたり。その中では、大人が子どもに教わることも多い。
「経済の発展をめざしてきた私たち大人は、真の豊かさや自分らしさを見失ってきてしまったように思います。また、『正解』を求めるあまり『失敗』を恐れるようになってしまいました。しかし、現代社会は何が正解か分からないことの方が多いし、正解がない場合もある。その中でいかに失敗を恐れず、何事にもチャレンジしていけるかが重要になってきます。そこでSTORIAが一番大切にしているのは『子どもたちにとって失敗は全て生きた学びである』ということ。また、これからの未来を担っていく子どもたちが体験学習などを通して『これまでにない新しい価値をつくっていく』こと。コロナ禍では、子どもたちが自分でデザインしたトートバックを販売するウェブショップも立ち上げました。私たち大人もこれまでの価値観を変えて、ともに学んでいかなければならないと感じますね」

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スタッフが楽しく働いている姿を見せることで「仕事は素敵なこと」と子どもたちに感じてもらえるよう、スタッフの幸せについても考えるという
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「子どもの貧困」という課題を
多くの人に知ってもらいたい。

多くの人に支えられていることを実感

新型コロナウイルス感染症の流行はひとり親家庭の家計を直撃し、子どもたちにも影響を与えた。STORIAも活動休止を余儀なくされ、学校も休校になり人との関わりが減ったことで、精神的な不安を抱える子どももたくさんいた。「パソコンやインターネット環境が整っていない家庭も多く、オンラインで活動することも難しい状況でした。なんとかつながりを保とうと電話での状況確認だけは続けましたが……」
この状況が長引けば子どもたちにどんな影響が出てくるか分からない。そこで、佐々木さんはさまざまなところに呼びかけ、使わないパソコンの寄付を募ることにした。「多くの方のご協力で、約30台のパソコンやWi-Fiルーターが集まりました。おかげでSTORIAに参加している子どもたち全員がオンラインでの活動にも参加できるようになり、コロナ禍であっても途切れることなくサポートを続けられるようになりました」
オンラインを介して子どもたちや地域の方々、社会人・学生ボランティアで集まることもあり、新しいコミュニケーションの形も生まれつつある。

「STORIAの活動はさまざまな方に支えられて成り立っています。パソコンの寄付もそうですが、特に大きいと感じるのは地域の方々の存在ですね。ボランティアとして食事を作ってくれたり、コロナ禍では子どもたちに配るお弁当づくりにも率先してご協力いただきました。地域で家庭や子どもの見守り対応もしてくれており、気になる家庭や子どもがいると連絡をくれることになっているので、こちらもすぐサポートに入ることができます。地域の協力なしには成り立たない事業でした」

子どもたちにも確かに伝わっている

子どもたちは、小学校を卒業すると同時にSTORIAも卒業する。しかし、最近ではほとんどの卒業生がボランティアとしてSTORIAに戻ってくるという。現在、中学生となった子からのヒアリングでは、「ここで経験したことで視野が広がり、将来に希望を持つことができた。下級生の面倒をみていると、スタッフさんやボランティアさん、母親の気持ちが分かり、自分もこうして支えてもらったんだなと思った。自分を変えてくれたこの場所に恩返しがしたい」と回答する子もいた。「取り組み自体はとても小さなものですが、人として大切なものを育めているという実感が出てきました。ここを巣立った子どもたちが将来家庭を持ったとき、ここで学んだように生まれてくる子どもに愛情をもって接し、生きる力を育むことで、少しずつでも幸せな子どもが増え、『愛情が循環する未来』がくることを願っています」

「みんなで未来を紡ぐこと」を発信し続けるため

現代社会ではひとり親家庭の2人に1人が貧困と言われている。佐々木さん自身、活動を続ける中で大きな気付きがあったという。「貧困家庭の子どもが貧困じゃなくなったから幸せになれるか、といえば決してそうではありません。自己肯定感や自己効力感が低いままだと、生きることさえ自信のない大人になってしまう。本当に大切なのは、貧困を断ち切ると同時に子どもたち一人ひとりが自分らしく多様な生き方ができること。子どもたちが自分の価値観を大切にし、選択し、人生を築いていけること。すべての子どもも、そして大人も、そのように生きられる社会に変わっていくことが必要なのです」
課題を生み出す社会の構造を変えることは簡単ではない。それでも、どうしたら子どもたちが心身ともに幸せを感じられる社会になるのか、多くの方々と対話を重ねていくことで、社会は変わっていくはず。震災で表面化するようになった子どもの貧困と真摯に向き合い続けてきた佐々木さんは、子どもや保護者たちへの直接的なサポートだけでなく、講演会やワークショップを通して「貧困」が起こるメカニズムを発信し続けることも、ひとり親家庭の辛さを知る自身の役割だと考えている。

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「子どもたちが自分らしく生きられることが、一人ひとりの幸せにつながるのだと思います」と佐々木さん