東日本大震災を契機に、佐々木さんは自身が生かされた意味について考えるようになった。震災で表面化した「子どもの貧困」は、今の日本社会が向き合わなければならない課題でもある。シングルマザーとして苦労を重ねながらも2人の子どもを育て上げた佐々木さんだからこそ理解できる、保護者の苦しみや子どもたちの悲しみに寄り添うため、2016年、STORIAを立ち上げた。
同じ痛みや悲しみを抱える
人たちのためにできること。
ライフラインが全てストップし、内陸部でも住宅の壁にヒビが入ったり、液状化が発生したりと混乱に包まれていたあの日。佐々木さんが当時住んでいたマンションも危険な状態と判断され、マンションのほとんどの住民が集会所での避難所生活を余儀なくされた。
集会所に身を寄せた住民の中には顔を合わせたことのない人たちもいたけれど、「家族が戻らない」と不安をあらわにする女性をみんなで励ました。その家族が3日間かけて歩いて集会所に帰って来たときにはみんなで喜び合ったことが忘れられない。
そんな避難所生活がひと月ほど続いた。佐々木さんは、昼は仕事に出かけ、夜は避難所の給仕を担当した。子どもたちにも手伝ってもらいながら働き続ける日々。職場では責任のある役職に就いていたため、自分の子どもたちと接する時間はどんどん削られていた。
震災を機に、ひとり親家庭の子どもと向き合う
「シングルマザーとして働きながら子どもを育てていくことに、辛さや生きづらさを感じるようになっていました。一方、『子どもを取り巻く環境が子どもにここまで影響を与えるものなのか』ということにも気付かされ、『震災で親を亡くしたり、家庭環境がガラッと変わってしまった子どもたちはどうなるのだろう』と思うようになりました」
子どもの頃から「生きる」ということについて考えて過ごすことが多かったという佐々木さんは、多くの人が亡くなった震災で、自分が生かされた意味を考えるようになっていた。シングルマザーとしての痛みや苦しみ、ひとり親家庭の子どもたちの悲しみを知っている自分だからこそ、何かできることがあるかもしれない。「災害や経済的困窮、複雑な家庭環境によって、子どもたちの未来が閉ざされてしまうなんてことは、本来はあってはならないことです。でも実際にそういう家庭は全国にたくさんある。そのような境遇に置かれた子どもや保護者たちに寄り添い、悲しみや楽しさをともに感じて生きていきたい、という想いが湧き上がりました」
生きる力を育むため、「STORIA」設立
子どもは親からの愛情を受け、ありのままを受け止められ、親と一緒に何かを成し遂げたりすることで、自分自身を大切に思えるようになったり、自信が持てるようになる。
親と接する時間が短いひとり親家庭の子どもも、早い時期に安心できる場所を見付け、安心できる人・自分を信じてくれる人と出会うことができれば、子どもたちが持って生まれた可能性が開かれるのではないか。その思いは日に日に強まっていた。そして、子育てもひと段落した2016年4月、「STORIA」の立ち上げに至った。「『STORIA』はイタリア語で『物語』を意味する言葉。子どもたち一人ひとりの人生の物語を子どもたちと一緒につくり上げていきたい、という思いで名付けました」
一般的な学習支援にとどまらず、体験学習などを通して子どもたちの「生きる力(可能性)」を育むこと。それがSTORIAのミッションだ。
子育て中は多くの人にサポートしてもらったという佐々木さん。その経験を糧に、今度は自分が同じ境遇の人たちを支える番だ、という思いが根底にある
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