STORY 02

講師派遣や防災教育に携わり、
地域の防災力向上に貢献。

ニーズに合った知識・技能を持つ講師を派遣

「防災士会みやぎ」は2013年頃から本格的に活動を開始した。主な活動は、自治体や団体、学校の要請による防災講話、訓練指導の講師派遣だ。単に防災訓練と言ってもその内容は幅広く、秋は風水害、春は地震、冬は防火といったように、季節によって実施する訓練の内容は変わる。また、学校防災から救急救命指導まで、あらゆる知識と技能を身につけ、指導する必要がある。
「基本的にこちらから内容を提案するのではなく、主催者側から『こういう内容で講演・指導してほしい』と依頼をいただきます。幸い会員の中にはいろいろな得意分野を持った方がいます。消防署に勤めている方、気象庁に勤めている方、地図作成の仕事をしている方など、その道のプロフェッショナルが集まっているので、ニーズに合わせて講師を派遣しています」と児玉さん。「防災士会みやぎ」の最年少会員は大学生、最年長は70代と世代の幅は広く、職業も様々だ。専門性の高い会員は、会員向けに研修を行うこともあるという。2018年からは、宮城県が地域の防災力向上のために設置した「宮城県防災指導員」を地域で活躍させるための、事後教育やフォローアップ講習も受け持っている。

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防災講話や訓練指導の様子

絵本「リオン」や防災キャンプで防災教育

震災の教訓から、若い世代への防災教育の重要性はあらゆる場面で強く叫ばれるようになった。「防災士会みやぎ」も同様に、防災教育を推進するため、授業に講師を派遣しているほか、2013年に幼児向けの減災絵本「リオン」を制作した。地球の恵みと災害が隣り合わせにあることを、絵を使ってわかりやすく解説し、災害に備えることの大切さを学べる内容になっている。「第3回国連防災世界会議パブリック・フォーラム」で発表してから多くの反響があり、大学や気象台、地方自治体など、全国各地から問い合わせがあるという。これまでに読み聞かせや紙芝居などのイベントも開催されている。
また、近年では小学校で「防災キャンプ」も実施している。これは、実際に学校の体育館に宿泊し、避難所生活を体験する取り組みだ。防災士と一緒に避難所の設営や炊き出しを行い、体験しながらいろいろなことを学んでもらう。もちろん保護者や先生も参加する。災害が起きたという設定で、翌朝迎えに来た保護者に、子どもをいかに安全に、間違いなく引き渡すことができるかも訓練のカリキュラムに入っている。
「防災キャンプは、子どもたちがとても楽しんで取り組んでくれます。特に災害時を想定した調理は興味深いようです。火を使わなくても食べられる防災食や空き缶を使って調理を行う『サバイバル飯』などが人気ですね。事後アンケートでは、家に帰ってから親と防災について話し合った、さっそく防災の知識を実践した、という子もいました」
若生さんはこうした活動を通じて、子どもたちが自然と「防災」という言葉を覚えていくのを実感するという。防災活動が身近であればあるほど、いざというときに慌てず正しい行動をとることができる。体験を楽しむことで記憶に残り、「災害って怖い」と思うだけではなく、みんなで助け合い、命を守るためにはどうしたらよいかを知ることができる。なるべく早い段階から、若い世代へアプローチを行うことが大切だ。

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未就学児〜小学校低学年向けに制作された絵本「リオン」
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未就学児〜小学校低学年向けに制作された絵本「リオン」

助けられる人から、助ける人に

宮城県をはじめ、今の日本は、どの地域に住んでいても常に災害の危険があり、世界的にも自然災害の多い国として知られている。だからこそ、多くの教訓があり、人々の防災意識も高い。海外からも注目を集める日本特有の防災への考え方について、菅原さんはこう語る。
「アメリカなどでは災害が起きるとすぐに軍隊が動くので、基本的に公助の考え方が根付いていますが、日本の防災は自助・共助の考え方を重視しています。私たちも『助けられる人から、助ける人に』とスローガンを掲げています。ただ国からの救助を待つだけでは、助かるものも助からない。子どもたちに防災教育を行うのも、町内会で自主防災組織を作り、頻繁に防災訓練を行うのも、まず自分の命は自分で守れるように、そして危機が迫ったときには住民同士で助け合えるようにするためです」
東日本大震災を経た宮城県内でも、まだまだすべての地域で自助・共助の考え方が浸透しているとは言い難い。「何かあったら国や行政が助けてくれるだろう」と考えている人も少なくない。しかし、「消防白書」などのデータによると、実際の災害時に公助によって救助された件数よりも、共助・自助によって助かった件数の方が圧倒的に多いことがわかっている。また、自治体の職員の数は地方に行けば行くほど少なくなるが、少ない職員数ですべての住民を助けに行けるかというと、決してそうではない。自主防災組織を作り、普段から自分たちで助け合う訓練をしておくことが必要となる。「防災士会みやぎ」は、防災講話や防災訓練指導などを通じてそのことを訴え続けている。

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「基本的に、自分の命を守るのは自分です。それを理解していただくために、根気強く啓蒙活動を行っています」と菅原さん
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さまざまな課題と向き合い、
防災の大切さを伝え続けていく。

講師の育成、学校と地域の連携が課題

東日本大震災から10年を迎え、「防災士会みやぎ」は、今後どのように活動の歩みを進めていくのだろうか。理事長の児玉さんは、「やはり今までと変わらず防災・減災の啓発・啓蒙を続けていくことが私たちの活動の主軸となります。ただ、これまでの活動を通じて見えてきたいくつかの課題もあります」と話す。
1つ目の課題は、年々増え続ける依頼に対応できる講師の育成だ。現在の会員数は127名だが、講師として実稼働しているのは40名ほど。多い会場では参加者50〜60名に対応できる講師を派遣する必要があり、さらに講話だけではなく演習が入ると複数人のスタッフを確保しなければならず、人員に余裕がないというのが本音だ。
「需要の高まりに対して講師の数が足りていないんです。防災士の会員を増やすことが第一ですが、講師の育成も急務です。いくら防災の知識があっても、教える技術がなければ伝わりません。伝える技術を持った元教師や現役アナウンサーの方が会員にいるので、そういった方々が会員向けの研修会を行っています。また、やはり実践が一番の成長につながるので、現場では講師以外に必ず補助者や見学者をつけて勉強の機会を作るようにしています」

2つ目の課題は、地域と学校の連携だ。宮城県内でも町内会は町内会、学校は学校と、それぞれで防災訓練を実施しているところが多いという。
「多くの地域では、小学校や中学校が避難所に指定されているはずです。いざと言うとき、その避難所を有効活用するためには、地域の方々と学校が密接に協力して備えておかなければなりません。実際に東日本大震災では、町内会と中学校が合同で訓練していた地域は、発生当時、ほとんどの生徒が中学校に集まって速やかに避難所の運営を手伝ったそうです。プールの水を運んだり、お年寄りを補助したり、若い人たちがそうした役割を担ってくれるだけで随分助かります。地域と学校の連携がいかに大事かということがわかりますよね」
今後は地域における若い世代との関わりが鍵になっていくと話す菅原さん。
「防災士会みやぎ」は、家庭・地域・学校が協働して子どもを育てる仕組みとして設立された「みやぎ教育応援団」にも加盟し、若い世代へのアプローチに一層力を入れていく予定だ。

コロナ禍だからこそ防災訓練は必要

「防災士会みやぎ」への防災訓練の指導要請は、とりわけ震災で被害の大きかった県北や県南地域に多い。中でも防災活動に熱心な大崎市は、毎年市内の約50ヶ所で防災訓練を行っている。山元町でも、総合訓練として1日に町内10ヶ所で同時訓練を行う取り組みを継続している。加えて2020年度は、「コロナ禍の災害」を想定した訓練内容で実施した。
「コロナ禍だから防災訓練はやらない、という考え方もありますが、今後もこのような状態が続くと考えたときに、コロナ禍での防災について正しい知識を理解し、然るべき備えをしておかなければならないと考えている自治体は多いです」
児玉さんたちもその考えに賛成し、積極的に講師派遣の協力をしている。
感染症対策をした上での避難所運営については、国からも基本指針が出ている。しかし、想像はできても実行するとなるとなかなか難しい。例えば避難所は、1家庭につき2m×2mで区切り、間隔も2mずつ確保する、とある。避難所の規模的に距離の確保が厳しい場合、どう対処するか。また、感染のリスクが高い避難者をどのように判別し、もし発熱者がいた場合どのような動線で隔離するか。そういったことの注意点を指導し、少しでも避難所での感染リスクを下げる手立てを考える。消毒液や検温カメラなど、今までとは違った備えについてもアドバイスを行う。最近では住民への講習の前に、まず自治体から職員への講習を依頼されることも増えた。コロナ禍での防災知識は、今後もますます需要が高まりそうだ。

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2020年に宮城県内各地で行われた、「コロナ禍を想定した防災訓練」の様子

さらなる活動の発展を見据えて

「防災士会みやぎ」は、自分たちの活動内容を発信し、防災への意識を高めてもらうため「仙台防災未来フォーラム」などのイベントに参加し、発信を行っている。2020年にはNHK仙台拠点放送局とも連携協定を結んだ。災害時だけでなく、平時の減災の推進や啓蒙活動等でも相互連携を図る目的だ。
また、ここ数年で「自主防災組織を立ち上げたいのでアドバイスがほしい」という問い合わせも増えている。宮城県内には自主防災組織がない地域や、または、あったとしてもうまく機能していない地域が未だ多くある。児玉さんはこの件に関して、「防災士会みやぎ」として掲げている目標を話してくれた。
「私たちは県内すべての地域に自主防災組織を立ち上げ、さらにその自主防災組織がしっかり活動できるところまでサポートしたいと思ってやっています。特に都市部は、転勤などで人の出入りが多く、住民同士のつながりをどう構築するかが課題です。防災訓練もコミュニケーションですから、まずは多くの人に参加してもらえないと意味がない」
しかし最近では、都市部のマンションやアパート単体で自主防災組織を作る動きもあり、不動産企業からの講師派遣依頼も増えているという。このように積極的に防災に取り組む不動産企業と、町内会や気象台など関連団体が連携することによって、活動の広がりが期待できる。
「防災活動は、単独ですべてを行うのはとても難しく、様々なつながりを持つことが大事です。普段からみんなで協力し合うことで、いざというときにそのつながりを発揮することができます。これからも、より多くの方々に自助、共助の考え方を広め、防災について知っていただくために、活動の幅を広げていきたいです」と児玉さんは語る。地域防災の連携の輪を広げ、尊い命を災害から守る「防災士会みやぎ」の活動は、これからも続いていく。

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「災害で命を落とす人を少しでも減らすために、これからも発展的な活動を行っていきたい」と児玉さん