STORY 02

被災地への想いを胸に、
精力的な支援活動を展開。

仙台を離れた後も、支援活動を継続

これまで楽天イーグルスでは、選手やスタッフによる支援物資の詰め込み作業をはじめ、募金などのチャリティー活動、被災者の試合への招待、野球教室、球団マスコットのクラッチ・クラッチーナと子どもたちのふれあいイベントなど、スポーツをキーワードにした支援活動に取り組んできた。2014年には楽天イーグルスを運営する株式会社楽天野球団が中心となり、募金団体「TOHOKU SMILE PROJECT」を組織し、寄付金をもとに東北各地にスポーツ施設を建設した。震災以降、屋外でのびのびと遊ぶ機会が少なくなっている、子どもたちの心身の健康を育むことを目指している。鉄平さんはこうした球団としての活動だけではなく、被災した子どもたちの夢を応援する「SENDAI青い鳥PROJECT」など、個人的にも被災地への支援活動を行ってきた。その取り組みは2014年、大阪府をフランチャイズとするオリックス・バファローズへ移籍してからも続いた。その一つが女川町で実施された「onagawa fish house AURA(小さな復興プロジェクト)」。ものづくりによる復興支援と被災した方々の心のケアを図るため、町の特産である魚の形をした木のキーホルダーなどを作る取り組みだ。キーホルダーの材料にしてもらうため、鉄平さんは試合や練習で折れたバットを大阪から届け続けた。
「チームの活動では、選手やスタッフがまとまってフットワーク軽く取り組めました。さらに私は、もっと被災された方の力になりたいと考えて、個人的に支援活動に参加していました。他の選手たちも、あまり口には出しませんでしたが、各々が自身の考えで行動していましたね」
その後、2016年に鉄平さんは現役を引退。翌シーズンから楽天イーグルスアカデミーのアカデミーコーチに就任し、仙台へ戻ってくることとなった。

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避難所では即席の握手会やサイン会が行われることも
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被災者とのふれあいを通じ、復興への想いを高めた

コーチとして「思い入れがある」仙台へ再び

15年間の選手生活の内、8年間を仙台で過ごした鉄平さん。オリックス・バファローズで現役を引退後、楽天イーグルスからアカデミーコーチ就任の打診を受けた。「その話を聞いた時は、率直に嬉しかったです。どんな形であれ、仙台に戻ってこられるのは嬉しかったですし、このチーム、そして、このまちに恩返ししたいという気持ちでしたね」と話す鉄平さんは、さらに仙台への想いについて語った。「楽天イーグルスに入団するまで、仙台とのつながりはありませんでしたが、長い間チームに在籍し、ここで大きく世に出させてもらったので、仙台はすごく思い入れのあるまちです。それに私は九州出身で、高校卒業後に中日ドラゴンズに入団して名古屋に住むなど、各地を転々としましたが、仙台が一番住みやすかったんですよね。永住するなら仙台かなと考えていたほどです。人の多さや街並みが、絶妙に丁度いいバランスというか」
2016年からアカデミーコーチとして東北や県内の各地を回り、子どもたちや地域の方々との絆を強めた鉄平さん。2018年からは二軍外野守備走塁コーチ、2020年からは一軍打撃コーチとして、選手の育成にあたっている。

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子どもたちにバッティングを指導する鉄平さん

全力で野球ができる日常を大切に

震災発生から、まもなく10年。鉄平さんから見る、被災地の復興の印象について聞いた。「物に関しては、全体的にかなり復興が進んでいると感じています。ただ失ったものは大きく、まだ元通りになっていない所もあります。新しい建物ができたからOKというわけではありませんし、今後も復興へ向けた活動は続けなければいけません」
現在、楽天イーグルスの選手やスタッフには震災を経験していない人も増えている。「特に相手から聞かれなければ、当時のことは話さない」というスタンスの鉄平さんだが、「もし機会があれば伝えたい」とも語った。「スピーチで話した通り、多くの方が亡くなり、悲しいことがたくさん起きました。今みたいに応援してくださる方がいて、自由に野球ができる環境があるという状況は当たり前ではありません。全力でプレーできることのありがたみ、日常を大切にしないといけないということは機会があれば、しっかり伝えていきたいですね」

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選手生活の大半を、この楽天生命パーク宮城で過ごした
STORY 03

震災から節目の10年となる
新シーズンへ向けて。

ファンと共に、あの歓喜の瞬間をもう一度

2021年のプロ野球公式戦はセ・リーグ、パ・リーグ共に3月26日に開幕を迎える。震災発生から10年となる2021シーズン、楽天イーグルスが掲げたスローガンは『一魂(いっこん)日本一の東北へ』。スポーツがもたらす感動を心から実感できた2013年の歓喜の瞬間を再び分かち合うために、チームも選手もファンも一丸となり1試合、1プレー、1球に魂を込めて闘う。日本一の東北へ、全員で一心不乱に挑む。その闘志漲る想いと復興への願いを表現した言葉だ。もちろん目指すのは、2年ぶりのCS(クライマックスシリーズ)進出、そして日本一の栄光。チームは8年ぶりに田中将大投手が復帰するなど、その準備は整っている。鉄平さんに新シーズンの意気込みを伺った。「震災から10年が経ったといって何か特別なことはありませんが、あの時のことを皆が考えるきっかけになる数字だと思います。かつて星野監督が仰っていたように、もう一度、被災された方々や応援してくださる方々を元気付けられるよう、野球でいい姿を見せられるように頑張っていきたいです」
楽天イーグルスはこれからも「がんばろう東北」を合言葉に、復興支援や東北の魅力を発信する活動を展開していく。昨年9月からは「特産品応援プロジェクト」がスタートした。復興に加え、新型コロナウイルスの影響で苦しむ東北各地の食材・工芸の生産者などを応援する取り組みだ。さらに球団では復興を支援するさまざまなプロジェクトが実施される予定だ。

一人ひとりがやれることを

10年前、札幌ドームで行ったスピーチの中で、鉄平さんが口にした「一人の人間として何ができるのか」「野球選手として何をすべきかどうあるべきか」「野球界が、選手が、ファンの皆さんが、この歴史の中で果たせる役割は何でしょうか」という言葉。あれから10年が経ち、選手、指導者として大半の年数を仙台で過ごしてきた今、あの時の問いの答えは見つかったのか。インタビューの最後に聞いた。鉄平さんは、震災発生時からこれまでの出来事を頭の中で反芻するかのように、少し間を置いてから静かに語り始めた。「答えは見つかっていないというか、答えはないと思っています。その時々でやれること、やりたいことをやっていくことが、自分にできることなのかなと思っています。これまで行ってきた復興支援の活動もそうですし、これからもそういった想いを持って、さまざまな取り組みに参加したいと考えています」
一人ひとりが、できることをする。私たちが被災地や復興のことを想う時、立ち返るべき大切なことが込められたメッセージだ。

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これからも一人の野球人として、野球を通して被災地への支援を続けていく

※写真は楽天野球団提供