STORY 02

スポーツの力で人々を笑顔に。
仙台89ERSの取り組み。

被災地で復興支援活動を展開

これまで仙台89ERSでは、被害が大きかった気仙沼や南三陸など沿岸地域を中心にキャンプやプレシーズンゲーム、公式戦の開催、子どもたちへ向けたバスケットボールクリニック、ボールの寄贈といった数多くの支援活動に取り組んでいる。志村さん自身も震災発生数日後から、仙台市内の消防学校で物資運搬のボランティア活動に当たった。これらの活動を始めた当初の印象について、志村さんが口にした。「率直にいうと、当たり前ではありますが笑顔が少ないなと。ただ、被災者の方々にお話を伺うと、私たちがバスケをしている間は皆さんにも笑顔が戻ったと仰っていたんですよね。『バスケを見ている時は、普段よりも元気でいられる』と。それはとても嬉しかったですし、スポーツの力を実感できた瞬間でした」

さらに、志村さんがその力を改めて感じたと話すのが、2013年に東北楽天ゴールデンイーグルスが日本一となった時だ。「仙台のまちが一体となって盛り上がっている様子を見て、スポーツには短い時間だけでも非日常的な感動や楽しみを感じてもらえる力がある。そして、自分たちがそういった力を伝えられる立場にいられることが幸せなことだと再認識できました。今後も、その魅力を多くの人に伝えていきたいですね」

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震災直後から被災地の訪問や復興支援の活動を展開
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3月11日に行っている仙台市荒浜の深沼海岸での黙祷の様子

地域におけるチームのあり方を発信

震災当時から、仙台89ERSに在籍しているのは選手、スタッフを含めて、志村さんだけとなった。そのため志村さんは「被災した人々の想いを背負ったチームだということを内外に発信し続けることが、より大切になっていると感じています」と語る。しかし、選手たちにはあえて多くを直接話すことはしていないという。「外国人や県外出身の選手がたくさんいる中で、あまり私から『こういうことがあって辛かった、苦しかった』と改まって話すと周囲は構えてしまい、それぞれの意見を表現しにくくなりますし、こちらの感情を仰々しく押しつけるようなことはしません。ただ、私が琉球ゴールデンキングスに在籍していた時に、沖縄で暮らしたことで地域の問題を意識したように、例えば被災地で試合を開催したり、深沼海岸で黙祷したりといった活動の中から、選手たちには過去の出来事や人々の想いに気付いてもらえればと思っています。そして、この地域で過ごす一人ひとりがチームのあり方を考えて、自分自身の言葉で震災のことを発信してほしいですね。実際に取り組みを通して、皆も色々なことを感じ取っているようです」
選手時代の経験を糧に、志村さんは選手たちの自発的な行動に期待している。

震災を風化させないために

志村さんは個人として、また仙台89ERSの支援活動として、毎年県内の被災地を回ってきた。それは各地の復興の歩みをつぶさに見つめることにもなった。「震災から10年目を迎える今年が、復旧・復興のステージとしては一区切りの年になると思います。仙台から気仙沼まで高速道路がつながり、沿岸部には防潮堤が完成するなど景色は大きく変わっています」
そして、「今後は次に起こるかも知れない災害に向けて、ハード・ソフト両面の備えを構築していくステージ」と前置きし、その中で仙台89ERSが果たせる役割について語った。「年数が経過するにつれ、若い人たちを中心に、当時のことを知らない人が増えてきているのも事実です。そのためには、絶対に震災の記憶を風化させてはなりません。我々が3月11日に向けて活動することで、過去の出来事や防災への新たな知見がフォーカスされ、皆さんがあの日のことを思い出せると考えています。チームとして、途切れさせることなく復興支援の活動に取り組み続けることも大きな目標ですね」

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HALEOドームでチームの練習を見つめる志村さん
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試合へ向けて活気のある練習を行う選手たち
STORY 03

「苦境は必ず乗り越えられる」
日本一へ向けて、仙台の人々と共に。

これまでの10年に感謝し、地域へ恩返し

2020年、仙台89ERSでは、「地域と未来、子どもたちと未来をつなぐ」をコンセプトにした活動「NINERS HOOP(ナイナーズ フープ)」を始動。仙台に加え、名取、塩竈、白石、加美、登米、南三陸を回って試合を行い、チームの輪を広げる取り組みだ。その一環として2020-21シーズンの開幕戦は、2020年3月に復興達成宣言を発表した名取市で初めて開催した。「震災で苦しい時から支えてくれた方々の元を回って、この10年の感謝を伝えるのが大きな目的です。さらに今後はNINERS HOOPを一つの大きなプラットフォームと捉え、その中の企画として地域貢献活動を行い、これまでの恩返しをしていきたいと考えています。そして、皆さんにとって身近な『おらほのチーム』になれるよう、次の10年へ向けて種を蒔いてまいります」
NINERS HOOPでは地域の魅力やグルメを選手がYouTubeで発信する企画や、ホームアリーナがあるあすと長町をナイナーズイエローの花々で染める「イエロープロジェクト」などが展開されている。また、震災から10年の大きな節目となる今年の3月に向けて、試合前の子どもたちによるエキシビジョンゲームなど、さまざまな企画が進行中だ。

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志村さんは「NINERS HOOPでたくさんの笑顔をつくりたい」と意気込む
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来シーズン以降もNINERS HOOPの活動は継続される

仙台89ERSの挑戦

2019-20シーズン、B2リーグ東地区首位に位置していた仙台89ERSだが、新型コロナウイルスの感染拡大によりプレーオフを含めて残り試合がすべて中止になった。2020-21シーズンも多くの制限の下、リーグ戦を戦っているが、志村さんは常に前を向いている。
「確かにチケット収入が落ちるなど、新型コロナウイルスの影響は出ています。しかし、今年は『シーズンを通して6割以上はホームアリーナで試合を開催しなければならない』というリーグの規則が緩和されたため、先述のNINERS HOOPも実現できましたし、この状況を嘆いているだけではなく、ポジティブに捉えていきたいですね。また、観戦に制限がある中、皆さん、予防を徹底した上で応援に訪れてくださっていて非常に感謝しています」
さらに、これからの展望を続けた。「コロナ禍の現在はプロスポーツに限らず、どの業界も大変な状況にあると思います。しかし、私は震災からここまで復興を果たすことができた仙台、宮城の人たちなら、この苦境も必ず乗り越えられると信じています。困難があっても、必ず立ち上がる。それこそが東北人の強さだと感じています。これからも一緒に戦っていきたいですね」
目標のB2リーグ優勝、B1リーグ昇格、そして日本一へ向かって。地域の人々の想いを力に変え、仙台89ERSの挑戦は続く。

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「震災を忘れないことが大切。そのために継続的に活動していきたい」と志村さん