STORY 02

震災前の記憶を
未来につなぐために。

人と人との交流を通して、荒浜への思いを強める

海辺の図書館には、毎回さまざまな人が訪れる。
「一時期、大学の修士論文を書くために、何度もここに来てくれる海外の大学院生がいました。荒浜で子どものころにした遊びなどを教えると、非常に興味深く聞いてくれました」と佐藤さん。小さいときは、よく近所の竹やぶの中に入って竹を割り、竹ひごを作って遊んでいたそうだ。さらに竹ひごを使って鳥かごを作ることもあったという。
庄子さんは「荒浜で紡がれてきた人々の暮らしや文化が、震災によって簡単になくなってしまうのは、もったいないと思いますし、悲しく思います。本来であれば史料にしか残らないようなことが、ここでは実体験を持つ人の生の声を通して、心に残すことができるのが醍醐味だと思います」と話す。
荒浜を知らない人にとっては、庄子さんや佐藤さんの話が新鮮に感じられ、良い刺激をもらう。一方、地元の人は昔の荒浜を懐かしく思ったり、楽しかった出来事を思い出したりすることができる。

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震災前の荒浜の暮らしや文化を教えてくれた庄子さんと佐藤さん

「海辺の図書館」写真展の開催

海辺の図書館では、専属カメラマンである佐藤さんの写真展も開催している。佐藤さんが特に好きな被写体は海浜植物。初夏に淡いピンク色の花を咲かせるハマヒルガオは、震災からわずか1年目で再生したという。
「見た人の心が安らげる作品を作っていきたいですね。写真を通して、荒浜の再生の様子を感じてもらえたり、被災者に元気を届けられたり、心を癒してあげたりできればうれしいです」と佐藤さん。
写真展では佐藤さんの作品の他にも、一般の人から収集した震災前の荒浜にまつわる写真も飾られている。昔の荒浜に思いを馳せたり、思い出を掘り起こしたり、あるいは未来について考えるような機会を作っていきたいという。
これまで、荒浜の海をギャラリーに見立てた「海辺の写真展」を開催。海を舞台にした催しでは、ウクレレの演奏会や能なども繰り広げてきた。荒浜の自然を背景に作品を見ることで、より地域の特色が感じられるイベントとなっている。

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砂浜の上に流木と写真を並べた「海辺の写真展」

海岸清掃活動を通して、荒浜の自然を守る

「海辺の図書館はすぐ目の前に海を臨むことができて、最高のロケーションなんです。冬場は雪が舞う幻想的な海の景色が楽しめるんですよ」と庄子さん。取材時には、その日の朝に撮影したという、気嵐(けあらし)の写真を見せてくれた。
海辺の図書館の目前に広がる海は、かつては「深沼海水浴場」として多くの海水浴客でにぎわっていたが、震災後は遊泳が禁止されている。それでも近年は海辺で休日を過ごす人も増えてきた。庄子さんは、荒浜の自然環境を守るため、また海辺を訪れた人が心地よく過ごせるようにするため、SNSなどで参加者を募集し、「深沼ビーチクリーン」という海岸清掃活動を毎月第2日曜日に開催している。
「市外からも多くの人が訪れ、清掃活動に参加しています。当たり前のことながらも、荒浜を訪れた人たちには楽しく過ごしてもらいたいですね」

STORY 03

「海辺の図書館」が
次の一歩を踏み出すきっかけとなるように。

誰も拒まず、温かく迎え入れる場に

図書館は本を読むことはもちろん、勉強したり、ぼんやり考えごとをしたり、1人静かに過ごしたいときでも、誰も拒まず迎え入れてくれる場。そんなところに図書館の魅力を感じているという庄子さん。海辺の図書館も、誰もが気軽に立ち寄れる拠点の1つになってほしいと考えている。
「慌ただしくすぎる毎日の中で、ときには海辺でゆっくり過ごすという選択肢も持ってもらえたらうれしいです。自分なりの自由な過ごし方で、荒浜の魅力に触れてほしいですね」と庄子さん。海辺の図書館のような拠点が、これからも色々なところに出来てほしいと願っている。

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海辺の図書館の建物には、荒浜のさまざまなシーンを切り取った写真が飾られている

人々の心に寄り添い、そっと背中を押す存在に

震災によって荒浜の人々は多くのものを失ったが、荒浜で過ごした日々は記憶として確かに残り続けている。その思い出を振り返るきっかけを作れるのが、写真だという。
佐藤さんは「たった1枚の写真であっても、それを見れば昔の思い出がよみがえり、深い安らぎや安心感が得られる人もいます。現在、荒浜のまちは震災前と大きく変わってしまいましたが、たくさんの人に笑顔が届けられるように、これからも荒浜の美しい自然や、暮らしの1シーンを切り取り、大切に写真におさめていきたいです」と話す。

また佐藤さんは、海辺の図書館での人と人との交流も大切にしていきたいと考えている。
「かつて荒浜で生活していましたが、震災で家を失い、現在は老人福祉施設に入居している人と、貞山運河でのしじみ採りの話をしたことがありました。その人は普段、全く会話をしない人だったそうですが、ここに訪れたときは、荒浜での暮らしを楽しそうにお話ししてくれたんです。それ以来、施設でも仲間と話をするようになったということを後から聞き、うれしくなりました」
取材時、明るい笑顔で接してくれた庄子さんと佐藤さん。今後も訪れる人々を温かく迎え入れ、心に寄り添い、背中をそっと押してくれることだろう。

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「海辺の図書館」というネーミングは、村上春樹の小説「海辺のカフカ」に登場する架空の図書館から着想を得て付けられたという