キーパーソンインタビュー

慣れ親しんだ地域の人たちと、
明日も楽しく過ごせるように。
新浜町内会女子会
村主夏江さん(写真左)
平山きよ子さん(写真右)

津波で壊滅的な被害を受けた新浜地区に、震災後、それでも戻りたいと願う人たちがいた。しかし、いざ戻ってみるとかつての活気はなく、住民たちの間にあるのは今後への不安と周囲への遠慮、ためらいばかり。急激な環境の変化に戸惑い、塞ぎ込んでしまう人もいた。せっかく戻ってきたのだから楽しく暮らしたい。その思いが村主さんを突き動かし、平山さんたちの協力のもと、「女子会」の活動が始まった。

STORY 01

“自宅に戻ればすべてが元通り”
そうではないことを痛感した。

新浜町内会がある新浜地区にはかつて、150世帯の人たちが、昔ながらのつながりを大切にしながら静かに暮らしていた。しかし震災の津波でほとんどの家屋が全壊。58名が犠牲になった。地区内の一部が災害危険区域に指定されたことで元の土地での再建が叶わない世帯もあったし、復興事業などで建築資材が不足し、なかなか建て替えられない家もあった。若い子育て世代の中には、津波への恐怖心から他の地域に移り住んでしまう人もいた。そのため、地区の世帯数は一時期10世帯程度にまで落ち込んでしまった。
住居を移した人の中には、仮設住宅に身を寄せる人もいたし、村主さんや平山さんのように借り上げ住宅に移り、住み慣れない土地でアパート暮らしをする人もいた。今まで仲が良かった人たちと離れ離れになって生活する中で、心がどんどん摩耗していく。親しい人が亡くなったという事実も重なって、精神的に不安定になる元住民も少なくなかったという。
――住み慣れた土地に戻りたい。
2012年11月に自宅を再建した村主さんを筆頭に、少しずつ新浜に戻る人たちが増えてきた。平山さんが戻ったのは2013年3月だ。しかし夜は暗く、静かで、周囲には誰もいなくなってしまったかのような錯覚に陥る。仮設住宅に入居していたという人たちが、日中、浸水した自宅の片付けに訪れたとき、今まで通り声をかけていいものか、お茶飲みに誘ってもいいものか、分からなかった。――不謹慎かもしれない。そう思うとなかなか声をかけづらく、自宅に戻るだけでは以前の生活を取り戻すことはできないのだと、痛感した。

交流のきっかけの場となる「女子会」を設立

徐々に家々の再建が進み、町内会の活動も再開し始めた頃、町内会の役員の間では家に閉じこもりがちになる住民が多いことが問題視されるようになった。急激な環境の変化と、親しい人を亡くしたショックに心がついていかず、地域全体が元気をなくしていたのだ。なんとかして元気を取り戻す、そのためには誰かと自由に話せる場が必要だと考えた。
町内会には、「西組」「中組」「北組」の3つの地域がある。中でも村主さんが住む西組には、「山神講(やまのかみこう)」と呼ばれる昔ながらの風習が残っていた。山神講は、子育てをする母親たちが集まって育児に関する苦労話や悩みごとの相談をするための行事として、宮城県内では美里町や仙台市のごく一部で行われている。集会所や各家に集まって歓談することもあれば、子ども連れで温泉旅行に出掛けることもあり、近年では疎遠になりがちな近隣との交流を密にする役割を担ってきた。「震災後しばらく交流ができなくなったときに『本当に戻ってよかったのか』と考えることもありました。ですが山神講などでのつながりがあったからこそ、女性たちが交流できる場を作りたいと思ったんです」

そして2013年、新浜町内会「婦人の集い」として始まった集まりは、2014年に村主さんが代表を務めるのに合わせ「新浜町内会女子会」に名称を改めることとなった。

仲間と協力し合って地域を盛り上げる

「ただ『お茶を飲もう』と誘っても、人によっては来にくいと感じてしまうかもしれないと思いました。だから町内会の行事として料理教室や手芸講座などを開催することで交流の糸口になれば、とイベントを企画することにしました」
開催のお知らせを配布する方法も「交流」がキーワードだ。本来ならポスティングで済むが、村主さんたちは1軒1軒訪ね歩き、直接手渡ししている。
「『こういうイベントをやるのでぜひ来てくださいね』と声がけすると、『予定が空いてるから行ってみようかな』という話ができます。中には、『自分は予定があって行けないけど、娘が行けるかもしれないから聞いてみる』と言ってくださる方もいるんですよ」

代表だからといって村主さんが一人で全てを担うわけではない。家々を訪問するときは平山さんをはじめとする女子会メンバーを地区ごと3つのグループに分け、2人1組で回って効率化を図っている。イベントに必要な材料をそろえたり、当日の運営に携わったり、協力して活動を続けてきた。「村主さんが率先して動いてくださるから、私たちも手伝おう、協力しよう、という気持ちになれるんです」という平山さんの言葉には、お互い支え合って地域を元気づけようとする地域力が感じられる。

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みんなで楽しい生活を送るために、お互いが支え合っている(左/村主さん、右/平山さん)みんなで楽しい生活を送るために、お互いが支え合っている(上/村主さん、下/平山さん)