情報の共有と発信、
それぞれの枠を超えた連携を目指して。
2020年はコロナ禍での活動
学生に向けた防災プログラムを1年間かけて行い、2020年末には参加者に「学生SBL」の称号が付与される予定だったが、コロナ禍で全て延期となってしまった。企画の先行きが見えない中で、2020年の防災事業を担当した三浦さんは、手法や趣意などを全て考え直したという。
「いくら新型コロナウイルスが蔓延しても、自然災害はいつ起こるかわかりません。仙台JCのOBにもたくさんアドバイスをいただき、コロナ禍であろうと災害対策はストップするべきではないという結論に至りました。せっかく昨年までの活動で大学生や仙台市との関係を構築できたので、彼らと協力し、とにかく今できることをやろうという方向性にシフトしました」
三浦さんはまず、仙台市に窓口になってもらい、各町内会に現状の防災活動はどうなっているのか、地域防災の課題や必要とされていることについて調査を進めた。仙台JCメンバーと東北福祉大学の学生たちで手分けをし、2020年9月からおよそ1ヶ月かけて計17ヶ所の連合町内会を訪問。少人数で感染対策をしっかりと行いながら、聞き取り調査を行った。そこで出てきた課題をもとに、10月31日に仙台市の防災士やSBLの方々、町内会会長や熊本県の学生団体などと「オンライン防災トーク」を開催。解決策について議論し、その内容を提言書にまとめ、11月に仙台市長に提出した。
「大人数が集まる講習やイベントは難しくても、防災・減災のために何かできることはあるはずと考えました」と三浦さん
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「オンライン防災トーク」の様子
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知見や取り組みの情報共有が課題
町内会への聞き取り調査によって、具体的にどのような課題が見えてきたのか。
「まず、町内会役員の高齢化がどこも共通の課題でした。現在の役員は70代以上の方が中心です。若い世代は平日の昼間に仕事があるので活動に参加する時間がとれず、代替わりが進まないのです。防災訓練を行うにしても、その内容が自然と高齢者向けになってしまったり、役員の体力的な問題から大々的なイベントが開催できないのも現状です」
世代交代や世代間の連携が進まないことで、別の課題も顕在化したと三浦さんは話す。それは、「共有力」の弱さだ。
「パソコンやスマートフォンを使いこなせる役員がいないので、仙台市からの連絡は全て書面での郵送が基本でした。これでは日常的に密な連絡を行うことや、いざという時に迅速な情報伝達を行うことも難しい。それに、各地域でそれぞれ防災活動をされているのですが、地域によって内容に差がありました。他の地域がどんな活動をしているのかお互いに知らないので、独自の取り組みを行うしかないという状況でした」
そもそも防災と言っても、山が近い地域、川が近い地域など各々で内容が違うのは当然。「これまで他の地域と情報共有する必要性をあまり感じていなかった」というのが、各町内会の本音だ。そのため、地域間の横のつながりはほとんど無いと言っても過言ではなかった。他の町内会で何をしているかわからない。逆にそれが分かることで気付きを得られ、全体的な防災力の底上げにつながると三浦さんは考えた。そこで作られたのが、「地域防災・減災プラットフォーム」というホームページだ。誰でも各町内会の防災の取り組みを登録でき、手軽な情報共有が可能。防災訓練などの活動報告だけではなく、震災の教訓や思いを綴り、次世代へ伝承することもできる。それと並行して、高齢の役員にLINEやメール、パソコンの使い方を教えて回ったことで、各町内会でのICT化が進み、情報伝達の速度は飛躍的に向上した。
「三浦さんが事業計画として見定めていたのが、町内会同士の知見や取り組みを共有化することでした。これまでは、いわば一つひとつが独立している状態。それらを共有化することによって、仙台市の防災力をさらに向上することができます。仙台JCとしてそのきっかけづくりに貢献できたと思います」
木皿さんは「2020年の活動では、顕在化していた課題がICT化を進めることで解決しうるということがわかりました」と続けた。
各世代へのアプローチと連携
2019年に千葉さんが活動をしていた際に見出した課題も、着眼点は「知見や取り組みを共有すること」にあった。情報共有や取り組みの紹介をデジタル的に行う必要があり、それらを担うのは電子機器の扱いに長けた世代=学生層であるべきと考え、「学生SBL」の着想につながった。
「私が活動していた時には、学生たちに各地域で電子化、ICT化を進めて行ってほしいという狙いがありました。一方三浦さんは、現在の活動の主軸となっている役員の方々に、自らデジタル的な発信や意思疎通をしていただけるようにという目的で活動を展開しました。これからを担う若い世代と、今を担う年配の役員へ、それぞれアプローチを進めていくことで、今後の発展は大いに期待できると感じています」
千葉さんは、さらに若い世代と町内会役員との連携を深めていきたいとも話す。震災を経験し、地域で防災活動を行う役員の方々は、「伝えたい」という思いがとても強いという。特に、震災を知らない若い世代に、できるだけ早い段階から防災教育を行うべきとの声は多い。進学や就職で一度仙台市を離れてしまう若者は少なくないが、「なぜ防災活動を行うのか」、その意味を自分の中でしっかり理解していれば、再び地元に帰ってきた時に、必ず町内会の防災活動に目を向けるはず。すべての世代において防災を当たり前のものにするために、今後も世代間の連携をより一層強化していく必要があると考えている。
「震災を経験していない世代も増えているので、どれだけ早い段階で防災教育を行えるかがポイントだと考えます」と千葉さん
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防災環境都市・仙台の実現へ、
JCの特性を活かした事業展開。
世界へ向けて仙台市の防災力を発信
仙台JCの防災事業は、防災の意識啓発から始まり、実効性・有用性を持つ事業として発展してきた。常に「JCだからこそできる活動を」と意識しているという木皿さん。JCが持つ独自性についてこう語ってくれた。
「JCは、世界120カ国にわたる国際組織であり、海外とのネットワークをはじめ、国内47都道府県、各市町村レベルまで幅広いネットワークを持っています。私たちは、防災環境都市・仙台としてこれまで取り組んできた防災文化や知見を全国各地、全世界に発信することで、世界の防災文化の発展に寄与する、そのきっかけを作ることができる団体であると思っています。これは他団体とは違う独自性なので、そこにしっかりつなげたいですね」
先述の「地域防災・減災プラットフォーム」や「学生SBL」制度も、確立されればロールモデルとして全国のみならず全世界に発信することができる。もちろん仙台市自体の防災力向上は前提だが、これから震災が起きうるあらゆる地域に対して、災害への備えを推進していくきっかけになればと考えている。
2021年夏には、震災から10年を迎えるにあたり、全国および世界80カ国のJCメンバーが仙台に集まる「JCI国際アカデミー」の開催を控えている。震災復興支援に対する感謝を伝えるとともに、参加者と被災地を巡り、当時の状況を解説することで理解を深め、震災の教訓を再認識してもらい、震災の風化防止につなげる。その上で、10年かけて仙台市がどう防災と向きあってきたか、地域住民の方々と協力し、いかにして防災力向上に寄与するロールモデルを作ってきたかを共有し、各国各地に持ち帰ってもらうことを目的としている。世界の防災文化の発展に寄与し、防災環境都市・仙台の魅力を全世界にアピールする絶好の機会だ。
防災力を高め、新たな未来へ向かう
震災から10年を迎える2021年。「JCI国際アカデミー」で全国・世界への発信を行うほかに、仙台JCとしてどのような活動を予定しているのか、三浦さんは話してくれた。
「2020年の防災事業を担当して思ったことが、仙台市民の皆さんの意識がとても高いということです。学生も知識豊富で、意欲がある。次の段階としては、世代間だけでなく各団体の枠を超えたつながりを作ることですね。コロナ禍でオンライン防災トークを行ったことがいいヒントになりました。学生、SBL、町内会などをつないで、防災環境都市・仙台として、全てを連携させていくことが目標です。そのきっかけになれるのが仙台JCだと思うので、課題は多々ありますが、取り組んでいきたいです」
千葉さんは、仙台市民に何が求められているのかをしっかり調査した上で計画するべきと語る。
「私たちは事業を行う際、必ず徹底した調査研究を行っています。防災という分野は仙台JCとして推進するSDGsにも直結します。そこにつながるような活動を、何らかの形で実現できたらと考えています。また、個人的には、全ての仙台市民が質の高い防災知識を持ち、道行く人に突然防災のことを尋ねても全員が答えられるという状態こそが、本当の意味での防災力の高い都市なのではないかと思います」
さらに木皿さんは、防災以外の分野にも目を向ける。
「防災を通して培われる世代間や地域のコミュニティは、防災以外にも活用が可能だと考えています。例えば地域活性やまちづくり。そういったものに活用する視点を持っていただけるよう、今後も意識啓発を続けていきたいと思っています」
見据えているのは、市民の防災力の向上と、新たな活動の広がり。独自のネットワークと推進力を持つ仙台JCは、これまで育んできた多くの成果をしっかりと活かしながら、10年目以降も様々な防災事業を展開していく。
2020年、仙台JCから仙台市長へ「防災に関する提言書」を提出。2021年以降の取り組みにも大きな期待が集まっている
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