キーパーソンインタビュー

日本、そして世界の模範となる
防災環境都市・仙台を実現するために。
公益社団法人 仙台青年会議所
2020年度理事長 木皿 譲司 さん(写真中央)
広報渉外室 室長 千葉 貴治さん(写真左)
しあわせな未来を思い描く仙台 創造委員会
委員長 三浦 雄一さん(写真右)

国内外に持つ幅広いネットワークを活用し、若い世代への防災教育や地域の防災活動への課題解決に取り組んできた仙台青年会議所の防災事業メンバー。
震災直後から積み重ねてきた彼らの活動は、年を追うごとに進化を遂げ、防災環境都市・仙台の実現へと着実に歩みを進めている。

STORY 01

仙台青年会議所として
綿々と受け継がれる防災への取り組み。

仙台市民の意識啓発や行動変革を促し、地域の発展に寄与するため、多岐にわたる事業を推進する仙台青年会議所(以下仙台JC)。震災発生からわずか3日後には「防災対策本部」を立ち上げ、ガレキ撤去や炊き出しといった直接的支援はもちろん、各地域のJCと連携し、国内外のネットワークを駆使した復旧・復興支援活動も行った。以後は防災事業を設置し、防災をテーマに様々な取り組みを行っている。ここ3年ほどは木皿さん、千葉さん、三浦さんの3人が1年ごとに担当し、活動の幅を広げてきた。「諸先輩方の活動の積み重ねがあったからこそ、現在の活動がある」と話す木皿さんは、2018年に防災事業を担当し、地元の大学生・高校生と連携を深める活動を行った。
「仙台JCとして、2012年から毎年『キャンドルナイト〜しあわせな黄色いハンカチプロジェクト〜』を勾当台公園市民広場で開催してきました。これは、黄色いハンカチを安否確認のツールとして使おうという取り組みの一環です。そういった啓発運動だけではなく、市民の皆さんに、より直接的・具体的に防災力を高めていただくために、仙台市内の大学生団体、多賀城高校などと連携し、2018年にブースを出して彼らの活動を紹介しました。
さらに大学生・高校生同士がトークする『学生防災サミット』を開き、防災環境都市・仙台を確立するために必要なことは何なのかについて、徹底討論してもらいました」討論では、学生たちから「各町内会の防災活動に若い力を活かせる仕組みを」「各地域で学生が活躍できる場をもっと作ってほしい」という意見が出てきたという。学生たちの熱い思いを受けた木皿さんは、学生たちが活躍できる場を作るため、仙台市内の小学校8校で彼らとともに防災に関する出前授業を行うことにした。

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2018年に行われた「学生防災サミット」の様子
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「私たち社会人だけでなく、大学生や高校生、小学生という世代間のつながりを意識した事業展開を行いました」と木皿さん

仙台市内8つの小学校での出前授業

出前授業では、小学生が楽しめるよう、カードゲームに似た学習ツールを使い、災害時における自助、共助、公助の考え方を教えた。自助とは、家庭で日頃から災害に備えたり、避難したりするなど、自分で自分の身を守ること。共助とは、住民同士で協力して消火活動を行うなど地域で助け合うこと。公助とは、市役所や消防・警察による救助活動など公的支援のことを言う。ゲームでは災害時のシチュエーションを用意し、「こういう時、どう動くか、どう考えるか」の選択肢を選ばせる。それぞれの問いに正解・不正解はない。
「ゲームは自助、共助、公助の性質を学ぶことを目的としています。自分が自助的な行動を選ぶのか、公助的な行動を選ぶのか、そのバランスを知ることができます。また、他者の行動を知ることで、防災への理解もさらに深まります。子どもたちが学んだことを家庭に持ち帰り、家族で防災意識について話し合い、確かめ合うきっかけにもなってくれました」
そう語る木皿さん。さらに、小学校でのワークショップを行っていく中で、新たなつながりも生まれた。すでに防災出前授業のパッケージを確立していた東北福祉大学の学生団体「Team BOUSAISI」も仲間に加わり、より多彩な授業を展開できるようになった。

大学生を中心に展開した2019年の活動

そんな木皿さんの取り組みを引き継ぎ、翌2019年に防災事業を担当したのが千葉さんだ。「木皿理事長が大学生・高校生と行った『学生防災サミット』のように、学生と一緒に何かできないかと考え、2019年の活動の方向性に結びつきました」 千葉さんは、地域の防災力を上げていくためには、仙台市、各町内会、仙台市民が三位一体となって防災事業に取り組む必要があると考えていた。そして、その鍵を握るのは若い世代であると考え、市内にある大学の学生たちと連携。さらに仙台市の減災推進課や国見地区連合町内会、仙台市地域防災リーダー(以下SBL)とも連携した事業を推進することを企画した。
「地域や仙台市、企業などと連携し、大学生たちは防災力をどんどん高めていってくれました。2019年の活動で最も大きな取り組みは、『国際防災プログラム』として仙台市の友好姉妹都市である台湾の台南市を大学生たちと訪れたことですね。台南市の市長に私たちが取り組んでいる防災活動について伝える機会を設け、現地の大学生とも防災を通じた国際交流を行いました」
ただ活動を報告するだけではなく、台南市ではどのような防災を行っているのか学び、台北市にある「防災科学教育館」も訪れた。これは、日本の阪神淡路大震災を受けて防災教育を強化すべく作られた施設。大学生たちは日本より早く作られた体験型防災施設を見学し、防災への学びを深めた。

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2019年9月に大学生たちと訪れた台南市政府消防局前にて
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「2019年は大学生たちが多角的に防災を学ぶきっかけを作ることができました」と千葉さん

学びの発信、そして学生SBL制度策定へ

千葉さんは、大学生たちが台湾で得た学びを仙台市へ持ち帰り、4月から半年間学んできたことを含めて仙台市民に発信・共有する場を設けることが重要だと考えた。そこで、仙台市、SBL、企業と連携し、2019年11月に「仙台JC防災フェス 市民が繋がる防災都市づくり」という一般の方も自由に参加できるイベントを行った。イベントでは、単に防災グッズの展示や防災講演に留まらず、「体験」にこだわった。例えば、ARゴーグルを使った災害体験や、仙台市の消防課による救命救急の体験講座、「防災飯」の試食など、参加者が体験しながら学べるコンテンツを多く盛り込んだ。
「仙台市、SBL、企業、学生たち、そして私たち仙台JCが連携し、とても有意義なイベントになったと思います。それぞれ防災に対して強い思いを持った方々が集まってくださったおかげで実現したことです」と千葉さんはイベントを振り返る。
大学生たちは防災の基礎から仙台市の地域防災まで約半年かけて学んだ。台湾へ赴いたことは彼らにとって非常にインパクトの強い体験となったが、「印象に残った学び」として、SBLの方々とグループに分かれ一緒に仙台市内を歩いたことを挙げる学生も多かったという。「ここは水害が多い地域だから、こういうものを目印にしているんだよ」「この地域の避難所はここだよ」とSBLの方々の説明を聞きながら実際の街を歩き、仙台市の災害に備えた備蓄庫も見学した。
「様々な体験をすることによって学生たちは防災の知見を広げ、防災意識を高めることができました。町内会関係の年配の方が多いSBLに、ぜひ若い力も加えたいということで、仙台市と協力して、若い人もSBLとして活躍できるよう『学生SBL』という制度を策定することができました」
本来の計画では、「学生SBL」を育成する取り組みは2020年からスタートすることになっていたが、新型コロナウイルスの影響でいったんプロジェクトは休止に。若手の防災リーダーの育成は、2021年以降に引き継がれることとなった。