大きな被害を受けたところから支援と再建を。
高齢者施設における防災の在り方も見直す。
災害時「連絡」と「人を運ぶ」ことが重要
髙橋さんは震災当時、公益社団法人全国老人福祉施設協議会理事、仙台市老人福祉施設協議会会長、一般社団法人宮城県民間社会福祉振興会理事長なども兼務していた。行政とパイプをつなげていた髙橋さんは、震災で得た教訓をもとに、震災後行政に対して様々な提案を行っている。通信手段と移動に関する提案はその一例だ。「発災時に連絡を取りたくても電話が通じず大変困りました。あの時、緊急連絡は普通の電話じゃダメだと思い知らされたものです。道路の渋滞により車での移動もままならなかった。災害では『連絡』と『人を運ぶ』ことが重要です。とりわけ緊急時に使える電話の設備は率先して行わなければと思いました」
また、発災から3日後の3月14日、仙台市老人福祉施設協議会は理事会を招集。宮城県と仙台市の担当者を交え情報交換を行った。これ以後、震災復興の対策は老人福祉施設協議会・県・市の三者が話し合い協議していくこととなった。まず議論されたのは、どこから手をつけるべきかについてだった。「あれだけの震災ですから、多かれ少なかれ被害はどこでもありました。比較的被害が少ないところは自分たちで復旧してもらうほかないと判断し、被害が大きかった潮音荘と杜の里の2施設を対象に支援することとしました。再建する施設を限定することに反対する意見もありましたが、これらの施設を優先的に支援することの重要性を出席者に説明し、了承されました」
復興支援と再建に向けて活動しながら、髙橋さんは仙台市と市老人福祉施設協議会とで「災害時相互支援体制運営要綱」を作成した。「震災前から災害に関する要綱は取りまとめられていました。新たに策定された要網は、実際に被災した自分たちの経験を踏まえ、あの時はどうだった、こうだった、という現実を踏まえて作り直したものです。より一層実効性の高いものになったと思います」
全国老人福祉施設協議会より仙台市老人福祉施設協議会を通しての義援金を被災施設へお渡しする髙橋会長(当時)
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開かれた高齢者施設が防災の観点からも重要
2000年に介護保険制度が導入され、高齢者施設を取り巻く状況は変化したという。それまでは地域との接点が少ない施設もあったが、この制度が導入されてからは行政の手を離れ、施設ごとに地域社会の中でそれぞれが運営していかなければならなくなった。介護保険制度の導入に伴い、現在は仙台ビーナス会だけでなく、他の施設でも地域に開かれた運営が行われている。「高齢者施設はどうしても施設内で何とかしなければ、と思いがちです。私自身そう思い込んでいた時期がありました。部外者が自由に出入りしたのでは安全性も確保できないと考えたんですね。ただ何かが起きた時、外部の方が施設内の実情を把握していないと、支援したくてもできません。あらかじめ防災訓練で建物の構造などを知ってもらう必要があります。高齢者施設が外に向かって開かれるのは、防災の観点からもとても大切だと思います」
震災の経験をもとに、髙橋さんらは新たに災害対策要綱を作った
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様々なイベントにより交流を促し、
想いを次世代につなげていきたい。
日頃の交流が「共助」を育む
現在髙橋さんが顧問を務める仙台市老人福祉施設協議会は、会員施設の横のつながりを強化する取り組みに力を入れている。髙橋さんの提案により、協議会は、2017年より青葉東支部、青葉西支部、宮城野・若林支部、太白支部、泉支部と5つの支部に分けられ、互助する仕組みが整えられた。「支部同士が定期的に会合を開き、お互いの顔の見える関係づくりを行っています。以前は近隣施設であっても、なかなかコミュニケーションが取れないケースもありましたが、現在は気軽に話し合える環境ができています。さもないことかもしれませんが、こういうことも防災に向けての大きな一歩になると信じています」
数十年に一度と言われるほどの大きな災害が全国各地で度々起こる昨今、これからは「共助」の重要性がますます高まると髙橋さんは考えている。ただ、一口に「共助」と言っても、一朝一夕に実現できるものではない。「防災訓練だけじゃなく、日常的な町内行事に積極的に参加していくのが一番でしょう。私が関わっている施設は、常日頃から町内会と気軽に行き来するよう心がけています。高齢者施設は決して特別な存在ではありません。高齢者施設で行われる行事にも住民の方々が参加することで、双方向の交流が一層円滑に行われるようになるものです」
仙台ビーナス会が主催した地域向けのお買い物イベント「カニっ子いちば」では、足が不自由な方をイベント会場まで送迎
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「カニっ子いちば」ではマグロ解体ショーなども開催され、地域住民との交流が深められている
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地域と連携し次世代へつなげる
新型コロナウイルスが高齢者施設に大きな打撃をもたらした現在、職員たちは不安を抱えながら日々奮闘している。「仙台ビーナス会では検温や消毒を徹底し、デイサービスの車両は1回使用するごとに全て消毒するようにしています」と髙橋さん。 職員や利用者への聞き取りにも神経を使う。例えば、職員の子どもが首都圏などから訪れた場合はその旨を申告してもらい、ある一定期間休んでもらうように定めている。「コロナ禍では1部屋に4人入るショートステイが利用できません。夏祭りや敬老会、新年会など地域との交流イベントも軒並み中止になりました。新型コロナウイルス対策で職員は神経も体力も使い果たし、経済的にも大打撃です。しかし、収入よりも大切なのは命です。その想いで職員一同コロナ禍に必死に立ち向かっているところです」
少子高齢化が進む中、髙橋さんたちの想いを次の世代にどう伝えていくかも今後の課題だ。「学校教育で福祉を取り上げたとしても、なかなか難しい。道徳も人の生き方も教えられるものではありません。日常生活の中で自然に育まれていくものです。高齢者と接する機会がない家庭で育った子どもの場合、小学生の頃から高齢者と接点を持ち触れ合っていくようにすれば、自ずと高齢者をいたわり、手を差し伸べる気持ちが育まれていくのではないでしょうか」
仙台ビーナス会をはじめ高齢者施設が地域と連携し、イベント等を通して世代を超えて交流を深めていくことにより、次の世代へ良い影響を及ぼしていくだろうと髙橋さんは期待している。
地域住民との交流が次世代につながっていくことを期待する髙橋さん
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