キーパーソンインタビュー

地域と調和し、社会に奉仕し、
支えられる高齢者施設づくり。
社会福祉法人 仙台ビーナス会 会長
一般社団法人宮城県民間社会福祉振興会 理事長
仙台市老人福祉施設協議会 顧問 
髙橋 治さん

仙台市太白区で特別養護老人ホーム、高齢者グループホーム、介護支援や包括支援センターなどを運営する社会福祉法人仙台ビーナス会会長の髙橋さんは一般社団法人宮城県民間社会福祉振興会で理事長、仙台市老人福祉施設協議会で現在顧問を務めるなど、長年にわたり高齢者施設の様々な課題解決に取り組んできた。
震災時には、仙台市老人福祉施設協議会の会長として率先して活動し、とりわけ津波被害を受けた沿岸部の高齢者施設の復興支援に力を尽くした。
震災当時を振り返りながら、防災に関してどのような取り組みをしてきたか、また今後の課題等について聞いた。

STORY 01

普段から育まれてきた地域との関わりが
震災時に役立ち、様々な支援へと結びついた。

仙台ビーナス会の「ビーナス」は金星を表す。中国では金星を太白星と呼び、仙台の太白山は伊達政宗公の時代に、中国にならいこの呼び名になったという。仙台太白福祉会という意味合いで命名された仙台ビーナス会は、現在四郎丸や袋原、中田など太白区内17の施設で事業を展開している。

冷静に情報収拾し速やかに対処

髙橋さんは仙台ビーナス会が運営する特別養護老人ホーム「白東苑」で執務中に震災に見舞われた。激しい揺れが収まったところで状況を確認するため、ラジオをつけた。停電のためテレビは見られなかったが、携帯電話でニュース映像を見ることはできた。
髙橋さんの初動対応は冷静だった。主だった職員を2階に集め、司令塔となり情報収拾に努め、迅速に指示していった。「地震発生から約1時間後、大きな津波が閖上に押し寄せてきそうだと報道されました。津波の高さは最大10mに達する恐れもありました。10mの津波では2階も被災してしまいます。しかし、利用者全員を他の棟のケアハウスの3階まで避難させるのは困難でした。津波の到達は河川敷で食い止められるだろうとの近隣の情報があり、避難は2階へとどめることにしました」
緊急事態が起きた時こそ慌てない。思い込みで即断せず、現状をしっかり把握した上で最善の策を講じる。いつも髙橋さんが心がけていた方針が発災時に発揮された。

発災した3月11日は職員も利用者も帰宅できず、施設内で一夜を過ごした。食料は備蓄していた非常食で対応したが、時間が経つにつれ外部から様々な支援が寄せられた。ただ、発災後に寄せられた支援は、結果に過ぎないと髙橋さんは分析する。「私たちは普段から地域の中でコミュニケーションを取り、できることをやってきただけです。それが震災でも結果として現れたのだと思います」

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緊急時には慌てず冷静に対処することをモットーにしている髙橋さん

震災を契機に防災意識を高める

仙台市老人福祉施設協議会は、社会福祉法人が経営する特別養護老人ホームなどの老人福祉施設等の相互の連携調整を図り、施設経営の充実・サービスの向上に取り組む協議会だ。市内在住の高齢者の福祉向上を図るため様々な活動も展開している。震災時会長だった髙橋さんは真っ先に沿岸部へ駆けつけ、被災した高齢者施設の状況を目の当たりにしながら、沈着冷静に復興支援を推し進めていった。「防災は避難と命を一番に考えなければなりません。私たちは常日頃から地域災害協力委員として地域社会での防災訓練にも参加していたため、仙台ビーナス会の施設では発災直後から多くの方々が施設を訪れ、支援の手を差し伸べてくれました。しかし、日常的に地元の町内会と連携していても、あれほどの震災に見舞われれば職員も利用者も混乱するのは当然でしょう。誰しもどこから手を打って良いか判断に苦しみますよ。私が沿岸部の高齢者施設で支援する上で最も意識したのは、被災した施設の復旧はもとより一過性の復興支援にしてはならないということです。今後の対策等についてもきめ細かくアドバイスしました。震災をきっかけに高齢者施設での防災意識は震災前よりも高められたのではないでしょうか」

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防災訓練で防災協力員と避難経路を確認する