防災の分野における女性の活躍、
そして「伝えていくこと」の大切さ。
3年間で100名を超える女性の防災の担い手を育成
前出の調査結果で女性防災リーダーなどの人材育成を望む回答が多かったことを受け、「イコールネット仙台」は2013年に防災に関心のある仙台市内の女性を募集し、「女性のための防災リーダー養成講座」を開講した。生活者の視点を持ち、地域をよく知る女性たちが男性とともに地域防災の担い手としてリーダーシップを発揮できるよう、3年間で100名の人材を育てるという目標を掲げた。ただ受講すればよいわけではなく、受講生は、男女共同参画の視点で構成された5回の連続講座を終了後、必ず地域で防災の取り組みを実践するという長期的なプログラムである。講座内容は多岐にわたり、例えば地域防災計画や避難所運営の方法、また震災で深刻化するDVや児童虐待の現状、障害の特性とその対応などを学ぶ。受講者には「講座が終わってからが本番ですよ」と伝えているという宗片さん。3.11での教訓を活かし、同じことを繰り返してはならないという思いからだ。
「受講を終えた女性の防災リーダーが活動の場を得て、地域で活躍できるまでをサポートするという流れを作ることが大切です。仙台市以外にも、石巻・塩釜・東松島などで講座を行うことができ、3年間で100名の女性リーダーを育成するという目標を達成することができました」
講座終了後は、受講生たちがそれぞれの地域へ戻り、受講生同士でネットワークを組み、情報交換や研修を重ねながら、地域の仲間とともに防災活動を展開している。地域の学生と連携した防災講座開催、小中学生を対象にしたワークショップの実施、男女が参加する災害食づくり講座開催といった積極的な活動が認められ、地域の防災会議委員や避難所運営委員を務めたり、防災訓練の企画を任されるなど、防災に関わる意思決定の場に女性が登用される機会も格段に増えていった。
女性のための「防災リーダー養成講座」の様子
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「市民のための防災力UP講座」では、災害時にライフラインが寸断された時でも作れるサバイバル飯、通称「サバ飯」作りに男女の参加者が一緒に取り組んだ
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「マイ・タイムライン」普及をサポート
地域における女性防災リーダーの活躍のために、宗片さんたちがこれから力を入れていきたいと考えているのは「マイ・タイムライン」の普及だ。マイ・タイムラインとは、風水害に備えるために、一人ひとりの生活環境や地域の特性に合わせて、あらかじめ作成する自分自身の避難計画のこと。自身の行動について、「いつ」「何を準備して」「どのタイミングで」「どこに避難するのか」などを時系列で整理することで、いざという時に慌てず安全に避難行動をとる助けになる。宗片さんは、マイ・タイムライン普及のための講座を、仙台市の防災・減災アドバイザーの折腹久直さんを講師に迎え、2021年2月に開催する予定だ。
「マイ・タイムラインを作成すると、男性と女性の違いが顕著に現れます。非常持ち出し品にオムツや粉ミルクなど、子育てに必要なアイテムを真っ先に思い浮かべる女性がいる一方で、管理職の男性は職場のこと、仕事のことが気がかりになる場合もあります。お互いのマイ・タイムラインを突き合わせて、災害時にどう行動するかを家族でしっかりと話し合うことが大切です」
宗片さんは、続けて「このマイ・タイムラインの普及を足がかりに、各地域での女性リーダー活躍の場をもっと広げられたら」と話す。
刺繍で伝える「わたしの物語」
防災リーダーの担い手育成の他に、「イコールネット仙台」として取り組んでいるのが、震災の記憶の伝承・発信だ。震災から年月が経過し、一人ひとりの震災経験や記憶が遠ざかっていくことを危惧した佐藤さんは、刺繍講座「ししゅうで伝える『わたしの物語』―東日本大震災の記憶―」の開催を企画した。
「記憶の風化を防ぐ目的で、何か形にして残すことはできないかと考えました。そこで、仙台市内の女性向けに刺繍講座を開催し、震災前・震災後のそれぞれの記憶・経験を25㎝四方の布に表現していただきました」
受講者の中には、「震災を思い出すのがつらい」と作品を完成させることができない方もいた。一方で、刺繍を作ることで気持ちを整理し、前向きになれたという方もいた。荒浜小学校の校歌や、津波の後も力強く咲き誇る桜の木など、それぞれのエピソードや思いを添えて製作された刺繍は、仙台市内各所で展示されたほか、3.11メモリアル交流館や「仙台防災未来フォーラム2019」でも多くの方々の目に触れ、感動を与えた。
「震災から10年というタイミングで新型コロナウイルスが流行し、大変な状況になっています。これもまた災害です。震災だけでなく、こうした災害においても大変だったこと、つらかったことを刺繍に残す活動もしていきたいと思っています」佐藤さんは力強くそう語る。
刺繍に使う布や糸は、各地からの寄付によって揃えることができたという佐藤さん
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出来上がった刺繍作品
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10年の節目であらためて考える
「女性と防災」のこれから。
シンポジウムで情報共有と発信を
「女性の防災リーダーは全国的に見てもまだまだ少ないものの、これからどんどん増えていくはず」と佐藤さん。「イコールネット仙台」が行ってきた取り組みは、防災分野で多くの変化をもたらした。そして、次々と大規模災害が発生している昨今において、彼女たちはどんな展望を抱いているのだろう。この問いに対して、宗片さんは「私たちのゴールは、一人ひとりの復興が果たされること。そして、被災地の女性たちが直面した困難を繰り返さないことです」と語ってくれた。
「私たちは、『人間の復興はすすんでいるか』というシンポジウムを毎年行っています。このシンポジウムは、宮城・岩手・福島それぞれからパネリストを招き、復興のための取り組みや、特に被災地の女性たちがどうなっているかを共有する目的があります。復興の進捗は各地域で異なりますし、震災から月日が経つにつれて、地域によって求められることや被災地の方々の考えも変わっていきます。大事なのはそれを“知る”ということ。互いに支え合い、一緒に復興を目指していける関係でいられるように、今後も継続して開催していきたいと考えています」
毎年3月に行われてきたシンポジウムだが、2020年は、新型コロナウイルスの影響で開催を延期。中止も危ぶまれたものの、岩手のパネリストがリモート参加する形式で9月に無事開催された。
シンポジウム「人間の復興はすすんでいるか」2019年の様子
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2020年は、オンラインにより行われた
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災害が多発する時代を女性たちが生きていくために
また、宗片さんは、震災から10年が経ち、もう一度女性たちにアンケート調査を行いたいと準備をすすめている。
「女性の防災リーダー養成講座などの活動を通じて、各地域のネットワークが構築できたので、その方々の協力を得て、10年という節目に再調査ができればと思っています。どんな10年を過ごしてきたのか、心の復興は進んでいるかなど、10年で区切りというよりは新たな課題を見つける意味で、『まだ終わりではない』という思いを込めて調査を実施したいです」
さらに、油井さんは「目に見える復興と、目に見えない復興がある」と言う。
「復興への課題はそれぞれの地域で違っていて、『復興』の意味もまた、一人ひとりで違ってきます。新しい建物や道路が完成し、人の往来が戻ってきたとしても、まだ精神的に立ち直ることが難しいという女性もたくさんいらっしゃいます。そういう方々を決して取り残してはいけないと思うんです。コロナ禍でも強く感じたことですが、いつ誰がウイルスに感染するかわからない、誰が被災者になってもおかしくない時代です。私たちはこれからも弱い立場の方々に寄り添い、サポートしていきたいと考えています」
男女共同参画の視点から、女性を始めとする災害弱者を支援し続けてきた「イコールネット仙台」だからこそ見えてきた課題。その課題解決のため、これからも活動の歩みを止めずに前進し続けていく。
「今後も、被災した女性たちの困難に向き合い、女性が防災の分野で活躍できるよう尽力していきたいです」と宗片さん
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