キーパーソンインタビュー

女性の防災担い手育成とともに、
震災の記憶を伝承・発信していく。
特定非営利活動法人 イコールネット仙台
代表 理事 宗片 恵美子さん(写真中央)
油井 由美子さん(写真右)
佐藤 勝子さん(写真左)

震災で女性が直面した困難に耳を傾け、女性の防災リーダー育成をはじめ、女性の視点から考える震災復興、伝承・発信などに取り組む「イコールネット仙台」。
女性が主体となった地域防災の推進、そして一人ひとりの復興を叶えることを目的とした様々な活動は、防災分野において着実に変化をもたらしている。

STORY 01

震災で目の当たりにした女性の困難。
調査やインタビューで明らかになる課題。

男女共同参画社会の実現を目指す、特定非営利活動法人「イコールネット仙台」の設立は2003年。政治、メディア、文化、健康など、あらゆる分野において男女平等の視点を取り入れるべく活動してきた宗片さんたちは、阪神淡路大震災の発生をきっかけに防災分野にも着目し、2008年に「災害時における女性のニーズ調査」を実施した。
「当時、世間では宮城県沖地震が高い確率で起きると言われていました。仙台市に住んでいる1100名の女性たちに協力いただき、災害時におけるニーズを把握するためのアンケートを実施しました」
宗片さんはアンケートを通じて、女性たちの不安や心配ごとの多さに驚いたという。子育て中、介護中、妊娠中、一人暮らし、シングルマザーといった多様な立場に置かれている女性たちにとって、「要介護の親を連れて逃げることができるか」「避難所で安心して授乳はできるか」といった不安や悩みは尽きることがない。宗片さんらはこの調査報告をもとに2009年2月に提言をまとめ、全国各地で女性たちが抱える災害時の困難について訴え続けた。
「いつ大災害が起きてもおかしくない状況で、女性の切実な声を把握するアンケートはとても貴重な資料となりました。ですが、当時は調査の報告会や防災に関するセミナーへの参加者のほとんどが男性で、なかなか自分ごととして捉えていただくことが難しかったですね。女性の防災リーダーはゼロに近かったと思います」
実際に各地で講演を行っていた宗片さんは、防災分野における男女平等の道のりの険しさを感じながら活動を続けていた。そんな最中の2011年、東日本大震災が起きる。

避難所での「洗濯代行ボランティア」

宗片さん、油井さん、佐藤さんの3人とも自宅や家族は無事だったことから、すぐに地域の避難所の様子を確認するべく動いた。そこで直面したのは、「災害時における女性のニーズ調査」を行った当時と何も変わらない、厳しい現実だった。
「収容想定人数を超える超満員の避難所は、特に女性にとって混乱と不安で満ちていました。更衣室も授乳室もなく、プライバシーは皆無。トイレは男女共用で、『ただあるだけ』といった状況。数も十分ではなく、とても汚れていました」
そう振り返る油井さん。心配していた以上の過酷な環境に言葉を失ったという。実際に避難者の女性に話を聞くと、「横になれないくらい人が密集しているので、目が覚めると隣に知らない男性が寝ていて怖かった」など、見過ごすことのできないつらい状況がそこにはあった。

少しでも避難所にいる女性のストレスを軽減できればと、宗片さんたちは震災直後からせんだい男女共同参画財団が立ち上げた「せんたくネット」に参加し、避難所での洗濯代行ボランティアに取り組んだ。ファスナー付きのバッグに洗濯物を入れてもらい、運転ボランティアが受け取り、また別のボランティアの女性たちに自宅で洗濯をしてもらう。洗濯物を受け取る人は中身を見ることはなく、洗濯をする人は誰の洗濯物なのか知ることはないため、プライバシーも守られる。ボランティアの対象は女性限定だが、家族分の洗濯物も受け入れOKにしたことで、女性たちの負担を減らすことができた。この洗濯代行ボランティアは避難所が閉鎖する7月末まで続けられた。また、避難所から仮設住宅へと被災者が移った後も、女性を対象とした出張マッサージサロンや語り合うお茶会、農家と連携した産直市などを開催し、積極的に女性たちへの支援を行った。

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「被災の度合いに関わらず、多くの女性がストレスや悩みを抱えていました。そんな女性たちの役に少しでも立ちたくて、様々な支援活動を行いました」と油井さん
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仮設住宅での支援活動の様子

男女の固定的な役割分担を変えていく

宗片さんたちが避難所で最も強く感じた違和感は、「運営を担うリーダーは男性、炊き出しをするのは女性」と、文字通り性別によって役割が固定されている様子だった。調理室のある避難所では、必ずと言っていいほど朝昼晩の3食を避難者の女性たちが交代で作っている。何百人もの避難者全員の食事を用意するのはとても大変で、女性たちはみな疲れ切っていた。
「女性だけではありません。リーダーでいなければならない男性たちも疲労困憊し、イライラしているのが見てとれました。男性はつい“管理”をしてしまい、女性はつい“我慢”をしてしまう。本来であれば女性もリーダーに加わるべきですし、調理担当に男性も加わるべきです。役割を性別で固定することは、お互いに負担になってしまうのです」
避難所での意思決定に女性が入っていないために、様々なトラブルが起きてしまう。男女どちらも、主体的に防災や復興に関わる必要があり、特に女性の関わりを強く促していくことが必要なのではないか。宗片さんはそう感じたという。

女性への調査とインタビューを実施

被災女性の経験や要望を明らかにするため、「イコールネット仙台」は2011年9月、宮城県内の女性3000名に「東日本大震災に伴う『震災と女性』に関する調査」を行った。震災発生から間もなかったこともあり、アンケートでは避難所生活でのつらさ、不便さを訴える声も多く寄せられ、「困難を抱えた者の視点」として貴重な意見が集まった。
「3000人にアンケートを依頼し、1500人の女性から回答をいただきました。多様なニーズに対応する必要性と同時に、震災発生時は地域に男性が少ない時間帯であり、女性たちが主体的に家庭・地域を守る必要性を感じたとの意見もありました」と佐藤さん。
2012年に報告書と調査結果をもとに、改めて「男女共同参画の視点から見る防災・災害復興対策に関する提言」を編纂。この提言では、意思決定の場への女性の参画、女性の視点を反映した避難所の運営、防災・災害復興に関する教育の推進を提案している。また、翌年の2012年には同じく宮城県内の女性40人にインタビューを行い、「40人の女性たちが語る東日本大震災」として冊子にまとめた。この40名の中には、シングルマザーや外国籍の方、自治体職員、セクシュアルマイノリティの方など、様々な立場の方たちがいる。それぞれの視点から見た大震災の姿を記録に残すことで、彼女たちが直面した現実、困難の解決を目指していく決意を新たにした。

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「東日本大震災に伴う『震災と女性』に関する調査報告書」
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「40人の女性たちが語る東日本大震災」は、英訳版も発行されているほか、5年後に同じ対象者に聞き取りを行い、「『今』、そして『これから』」というタイトルで再び冊子にまとめられた