STORY 02

多彩な支援活動を展開し、
人々の笑顔をつなぐ。

「雄勝ローズファクトリーガーデン」の整備を通じて、地域の観光振興を図る

震災の年の11月、雄勝町出身の女性から鎌田さんに一本の電話があった。それは、巨大津波で壊滅的な被害を受けた雄勝町を、花と緑の力で再生させることができないかという内容だった。鎌田さんはその依頼を受け、さっそく現地に赴いた。
約束していた味噌作地区を訪問。その一角には花束が添えられていた。鎌田さんは花束のことが気になり依頼主に尋ねると、犠牲になった家族の霊をとむらうために供えているとのことだった。「ここは私の土地なので、自由に花を咲かせることができます。今後も私が責任を持って管理します」と依頼主。鎌田さんは依頼主の言葉から強い熱意が感じられたという。それから本格的な支援事業を展開していくことになった。

鎌田さんは全国の個人や団体、仕事でお世話になっている園芸店などに呼び掛け、ボランティアを募集。地道に努力を重ね、バラやラベンダー、ネモフィラなど多彩な植物が生い茂る大規模な「雄勝ローズファクトリーガーデン」を整備していった。一時期、国道建設のため移転することになったが、それも多くのボランティアと協力して、なんとか乗り越えることができたという。
2019年にはガーデンカフェがオープンし、ガーデンでフレッシュハーブティーやベーグルなども楽しめるようになった。鎌田さんは「花と緑を通して被災地に多くの人が集まり、地域が活性化していくことを願っています。最終的には、被災者が自主運営できるように支援していきたいと思っています」と前を向く。
雄勝ローズファクトリーガーデンは現在も工事が行われており、今後もますます発展していく予定だ。

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写真は移転前のガーデン。色とりどりの花が目を和ませる

かつての豊かな自然を復元させる「仙台居久根(いぐね)プロジェクト」

居久根とは、仙台平野を中心とする地域での屋敷林の呼称。「居」とは家、「久根」とは地境であり、屋敷境という意味も持っている。主にスギやケヤキ、ヒバなどの高木が用いられており、防風や防潮の役割を果たしたり、燃料や建材として使われることもある。かつて仙台市の沿岸部には、居久根に囲まれた農家の屋敷が数多く点在していたが、津波によってほとんどが流出。この失われた緑を復元させようと「仙台居久根プロジェクト」も行っている。
例えば若林区笹屋敷地区では、住民の要望からスギの苗の他、ハナモモやツバキ、ユズなどの苗を提供。昔ながらの豊かな自然を取り戻すため、住民たちは自ら積極的に植栽を行った。

「支援事業に必要な資金や物資は、すべて前もって準備しなければなりません。時には全国を飛び回って集めることもあります」
ボランティアとはいえ自分の取り組みに一切妥協はしたくないと言う鎌田さん。
「被災者をあっと驚かせたい」「感動を届けたい」と、年々、事業のレベルを上げながら被災地の復興に邁進している。

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「仙台居久根プロジェクト」での植え込み作業の様子

防災集団移転跡地を活用した再生に向けて、「久保野キッズアグリガーデン」を整備

鎌田さんは、集団移転先である宮城野区福室久保野の復興事業にも力を注いでいた。被災地の自然の再生や活性化を目的とした市民農園「久保野キッズアグリガーデン」を整備する取り組みだ。この事業は、アメリカ在住の人気ダンサーから送られた支援金を使って展開していった。
「有名人からの支援もありましたし、国内のみならず、海外からもたくさんの協力をもらいました。支援をしたい人と支援を待つ人とをつなぐコーディネートも行い、物事がスムーズに進むように努力しました」
久保野キッズアグリガーデンは、子どもから大人まで幅広い世代が集う憩いの場。訪れる人々は野菜やハーブ、花を育てながら農業を学んだり、緑とふれ合い心を癒したりと、自然の魅力にふれられるスポットになっている。

鎌田さんはこれまで紹介してきた事業の他にも、数えきれないほど多くのプロジェクトに携わっている。約10年もの間、仕事とハードなボランティアを両立させてきたのだ。「今までを振り返るとあっという間でした。うれしかったこと、大変だったこと、エピソードはあまりにもありすぎて話しきれません。ですが『花と緑は人の笑顔をつくる』ということは間違いなくいえることだと思います」

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震災の年から約7年かけて整備した「久保野キッズアグリガーデン」
STORY 03

花と緑のある景色を
さらに広げていきたい。

被災者の笑顔のために、これからもずっと支援を続けていきたい

今やボランティアはライフワークの一部だと話す鎌田さん。被災地の支援事業は体が続く限り、今後も継続していきたいという。「日中は仕事、夜はボランティアを行い、毎日夜中の2時、3時ころまで働くような生活をしばらく続けてきました。あまり休息時間が取れなかったこともあり、体を壊したことがあったんです。これまで泣きたくなるような大変な出来事は多々ありましたが、被災者の笑顔が励みになって、長く続けることができました」
これからも被災者のために尽くしていきたいと、支援事業に熱意を見せる鎌田さん。過去に大変な思いをすることはあっても、支援をやめたいと思ったことは一度もなかったそうだ。
「人によっては、花が心の支えとなっていることもあります。例えば、家の庭にある満開の桜を見て喜び、生きる力をもらっているという人もいれば、季節の花々を見て、楽しかった思い出を振り返るような人もいます。中には、自然の生命力に感動して涙する人もいるそうです。そういった人たちのためにも、自分が持っている力はできる限り、社会に尽くしていかなければならないと思いますね」

花と緑にあふれたまち並みを夢見て

植物は身近な環境に取り入れることで心が安らいだり、部屋の空気をきれいにしてくれたり、華やぎをもたらしてくれたりと、様々な良い効果をもたらしてくれる。さらに植物を通してコミュニケーションが促進されることもある。
「近年は高齢者の1人暮らしが増えており、それに伴い孤独死の数も増えています。それを防ぐには、周りの人とのコミュニケーションの機会をつくることが大切だと思うんです。例えば、集合住宅の隣に花壇があれば、花が話の種になり、住民同士の交流を生むきっかけにもなると考えています」
人と人との交流が生まれれば、少しずつにぎわいが創出される。さらに花と緑はまちの景観づくりにも貢献でき、多くの人が安心して住めるような地域をつくることもできる。鎌田さんは花と緑の力に秘められた可能性を信じ、被災地のさらなる活性化に向けて力を入れていく。

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これからもずっと被災地の復興のために力を尽くしたいと話す鎌田さん