STORY 02

農家としての苦労や
やりがいを振り返る。

農家として認められる最低条件をクリアするために

就農するまでに一番大変だったことは、耕作地を確保することだったと2人は口をそろえる。仙台市で農家として認められるためには、50アール以上の耕作地を保有しなければならないのだ。堀江さんは「祖母が農家を引退してしまったので、所有している農地を耕作してくださる方に貸し出しました。そのため、農業大学校で一緒に勉強した人の人脈を頼って、耕作地を多く所有する地主さんとつないでもらいました。そこでなんとか畑を借りられました」と振り返る。

平松さんは県外出身ということもあり、堀江さんよりも気軽に相談できる知り合いが少なかったという。そんな中でも、農業研修生時代にお世話になった地域の農家に協力を求め、諦めずに耕作地の獲得に励んだ。平松さんは「耕作地を借りるには、不動産屋でアパートを借りる時のように簡単にはいかないんです。まずは地域の人から信頼を得るために、町内会の人と仲良くなり、顔を覚えてもらわなければなりません。私はよそ者なので、自分自身もよく分かっていない地域のことをきちんと理解するためにも、積極的に地域のコミュニティに参加していました」と語る。地道な努力を重ね、やっとの思いで耕作地を借りられるようになった。

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耕作地を手に入れることが一番の難関だったと語る平松さん

“農業のプロ”としての自覚を持って

新規就農者となることにはどんな利点があるのだろうか。
「新規就農する際に、自治体から『認定新規就農者』の認定を取ることで、国庫事業等の活用など様々なサポートを受けられるようになります」と平松さん。
個人の売り上げや成績の評価などをフィードバックし、適切なアドバイスをしてくれるサポートチームの存在もその一つだ。サポートチームは、市役所や県の農業改良普及センター、農協などの職員4〜5名ほどで構成されており、1人の農家に対し手厚い支援を行っている。堀江さんは「認定新規就農者は野菜を作るにも、自分が作りたいものを自由に作れるわけではなく、認定時に市に申請した計画に基づいて栽培しなければなりません。年に1回か2回はサポートチームに現状を報告し、その内容を基に計画どおりに進んでいるか評価されます。プレッシャーを感じることは多々ありますが、自分の取り組みに対して正しくアドバイスをしてくれる人がいるのは、ありがたいことだと思います」と話す。
2人はサポートチームからの助言を大切に受け止めながらも、自ら試行錯誤し、日々、仕事を改良し続けている。

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農家の仕事が忙しく、お互いに顔を合わせられるのは貴重な機会だという堀江さんと平松さん

仙台市沿岸部における野菜作りで、工夫していること

仙台市沿岸部はもともと稲作が盛んな地域。しかし堀江さんと平松さんはコストなどの観点から、初心者でも取り組みやすい畑作を行っている。「沿岸部の耕作地は、田んぼがほとんどで畑はあまりありません。少ない農地でも収量を伸ばすため、1種類の野菜を大量に育てるのではなく、数種類の野菜を少しずつ育てて、季節ごとにいろいろな野菜を出荷できるようにしています」

堀江さんは、年間約10品目の野菜を栽培。メインは長ネギで、他に小松菜なども育てている。長ネギは年1回収穫する作物だが、小松菜は最大年12回収穫することができる。「それぞれの野菜で特徴が異なるため、実家から近い農地には、年間の収穫回数が多い野菜、遠い農地には収穫回数が少ない野菜を植えるようにし、なるべく移動の手間が掛からないようにしています」と話す。長ネギは作付け面積が広く、収量が多いので、皮むきの作業には機械を導入して効率良く進めているという。

一方、平松さんは年間20品目の野菜を作っている。「機械が置けるようなスペースに限りがあるので、機械を共同で使ったり、手作業で行ったりと工夫して出荷しています。手作業は手間暇が掛かるイメージがあるかもしれませんが、機械を導入するにも同じくらいの大変さがあります。導入費やランニングコストは掛かりますし、機械操作の知識や資格が必要になることもあります」農業の機械化は、する、しない、どちらがいいのかは一概に評価できない。農家それぞれの経営方針によるところが大きいのだという。
農家は一人ひとり栽培する野菜も違えば、栽培方法も様々で、工夫することも異なる。農家同士、比較はできず、各々がプロとしての自覚を持ち、自分に合った農業のあり方を模索している。

堀江さんと平松さんは、自分が栽培した野菜をスーパーの直売コーナーなどに卸している。直売コーナーではお客さんから「おいしかった」「また買いたい」「家族が喜んでいた」といったうれしい言葉をもらう機会があり、やりがいにつながっているという。「自分が作った野菜を食べてもらえるだけでうれしいのに、感謝の言葉をもらえるとさらに励みになりますね」と堀江さん。2人にとって応援してくれるお客さんの存在は大きいようだ。

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堀江さんの農地は、若林区日辺や太白区柳生などに点在している
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堀江さん宅の畑にて
STORY 03

1人の農家として
地域のためにできること。

地元野菜のおいしさを、多くの人に伝えたい

堀江さんは「最初は自分が食べたいからという気持ちで野菜を作っていたのですが、最近はお客さんから感謝されることが増えて、もっとたくさんの人に食べてもらいたいと思うようになりました」と話す。
直売コーナーでは、作ってほしい野菜をリクエストされることもある。お客さんとの交流は、消費者のニーズを知ることができる貴重な機会にもなっているようだ。「昔は近所の農家さん同士、お互いに仕事を手伝って助け合ったり、コミュニケーションを取ることが多かったそうです。今はそういった交流が減ってきているので、お客さんの生の声はとても貴重ですね」

将来は野菜の消費量をさらに上げるために、加工品も手掛けていきたいという。
「加工品を作ることで、地域の農産物をより魅力的に発信できるのではないかと考えています。もし名物になれば、地域の活性化にもつながりますし、前向きに取り組んでいきたいと思います」
自分の仕事が少しでも地域のためになればと話す堀江さん。まずは目の前のことにコツコツと取り組み、たくさんの人に喜んでもらえる野菜を誠実に作っていきたいとのことだ。

農業に携わる人も土地も、大切に未来につないでいきたい

平松さんは、農家の後継者問題を視野に入れて、農業をやりたい人と後継者を必要とする人とをつなぐ仕組み作りを行ったり、コーディネートをしていきたいという。
「農家になりたい人は確実にいます。私の農園には年間10人以上から問い合わせがあり、視察や研修を受け入れています。そういった人たちを地域に活かすためにも、先進地域から学んだり、若手同士で考えたり、農家さんたちをつなぐ役割を担っていかなければいけないと考えています」

地域農業の活性化に加え、被災地の景観作りのためにも、花畑づくりに取り組む予定だ。
「防災集団移転跡地の一部を借用し、来年から『震災遺構 仙台市立荒浜小学校』の隣に80アールほどの耕作地を整備する計画を立てています。荒浜小学校には全国からも多くの人が訪れていますし、少しでも周りの景観作りに貢献できればと思い、マリーゴールドを植える予定です。花畑を見て、被災地の復興を感じてもらえたらうれしいです」
マリーゴールドは華やかな見た目で人に元気を与えるだけでなく、虫よけや緑肥としての役割も果たしてくれる。化学物質を使う回数を減らすことができるので、環境にも人体にも優しい農業を行うことができる。

「現在、農薬や化学肥料を節減して栽培する『特別栽培』を研究しています。特別栽培は環境への負担が少ない栽培方法なので、持続可能な農業に貢献することができます。そもそも農業は、代々受け継がれてきた土地を活用して行うものです。私の代からさらに未来につないでいくためにも、最善の努力を行っていきたいです」
堀江さんと平松さんそれぞれの思いが、被災地の新たな未来に向かって走り出そうとしている。

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見て、触れて、野菜の成長を確かめる堀江さんと平松さん