街の長期的な価値向上につながる
具体的な5つの事業を推進。
コミュニティ形成とにぎわい創出
榊原さんたちはまず、「都市再生推進法人」として仙台市から指定を受けることで、公的な立場でまちづくりに取り組める体制を作った。「都市再生推進法人」とは、都市再生特別措置法に基づき、地域のまちづくりを担う法人として市町村が指定するもの。長期的かつ多角的な活動を行うには行政との連携が不可欠なので、必要な立ち位置だ。こうして行政と協力体制を築きながら、「荒井タウンマネジメント」は5つの事業を推進していく。
1つ目の事業は「コミュニティ形成事業」。住民同士が顔の見える関係を築き、いざという時でも安全・安心なまちの礎となるコミュニティづくりを支援する取り組みだ。住民自らがまちづくりに参加し、地域で活躍できる場をつくることも目的としている。例えば地場野菜や加工食品、手作り雑貨、アート、リラクゼーション、ワークショップなどが出店する「荒井なないろマルシェ」は、月1回開催で、今ではエリア外からも多くの人が訪れる名物イベントとなった。また、戸建住宅の町内会の設立を支援し、新たに住民となった方々が早く地域にとけ込めるように促す取り組みも行っている。地域で住民同士が顔見知りになっておくことによって、災害時の共助に役立てるという狙いもある。
2つ目は「にぎわい創出事業」。2015年から地下鉄東西線開業・荒井東地区街開きを記念したイベント「あらフェス」を開催。また、震災後の仙台市を舞台にした映画「風のたより」製作のロケ地斡旋や資金調達でサポートするなど、多彩なイベントに関わっている。
「活動を持続するためには確実に利益を出すこと、さらにその活動は地域に還元できる内容であること、住民や民間企業が活躍できる内容であることが求められます。住民の方々や民間企業と日頃からコミュニケーションをとり、どんな取り組みなら皆さんが主体的に活躍できるか、楽しんで参加いただけるかを考えて企画しています」
「なないろマルシェ」と「あらフェス」の様子 |
エコタウンと官民連携
3つ目に推進した事業は「エコタウン事業」だ。これは、地区全体の低炭素化と居住者の快適なエコライフを目指す取り組み。具体的には、休耕田に太陽光発電所を設け、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」による売電を行っている。また、仙台市エコモデルタウン事業と連携し、荒井東復興公営住宅でエネルギーマネジメント事業を実施。電力の「見える化」によってエリア全体の省エネの意識向上を図る狙いだ。
4つ目は「官民連携事業」。公共施設の維持管理を通じて、まちの豊かな個性を育むとともに、公共空間を積極的に民間利用してもらうという取り組みだ。象徴的なものとして、「荒井東1号公園」のパークマネジメントが挙げられる。これは、「荒井タウンマネジメント」が公園全体の日常的な清掃・点検、植栽の維持管理も行うことを条件に、仙台市から公園の一部を借り受け、資金調達して整備し、ノウハウを持つ民間団体と業務提携して公園内の運動施設の管理運営を担うというもの。
「現在は、全面人工芝のフットサル・テニス兼用コートのレンタル施設『荒井東1号公園スポーツパークSPiA』としてスポーツ少年団の利用やイベントなどでたくさんの方々に利用していただいています。都市再生推進法人として公園を有効活用し、住民の交流やにぎわいだけでなく収益も見込む、官民連携の取り組みとしては全国初のスキームではないかと思います」
ナイター設備や更衣室、シャワーブースなどが完備された「荒井東1号公園スポーツパークSPiA」は、「第34回都市公園等コンクール」の特定テーマ部門において、(一社)日本公園緑地協会会長賞を受賞した |
さらなる街の発展のために
5つ目は「不動産事業」。現在、保育園や歯科医院、調剤薬局、デイサービスなどが入る複合施設「アライデザインセンター2」がこれにあたる。
「荒井東エリアで暮らす方々のための複合型ライフサポート施設として、暮らしを豊かにするテナントを積極的に誘致しました。テナントから賃貸収入を得て、住民へのサービスへ還元する仕組みです。さらにこの施設は、地域が事前準備、災害時の運営を行う地区避難施設『がんばる避難施設』に位置づけられています」
子どもからお年寄りまで、住民がより安全に、安心して長く暮らすことができるまちづくり。これまで注力してきた5つの事業は、「荒井タウンマネジメント」が目指す“まちの長期的な価値向上”のための取り組みだ。地元住民、民間企業、行政が協働しながら、「荒井東1号公園」や「アライデザインセンター2」など、まちづくりの理念を象徴する施設も次々と誕生し、震災復興の先導地区としても機能してきた。しかし今後、荒井東エリアがさらに発展し、もっと大きな枠組みへと進化していくために、榊原さんは次なる一手として「仙台海手(うみのて)エリア」形成のビジョンを描いている。
「仙台海手(うみのて)」を発信。
まちづくりの挑戦は続く。
点と点を結ぶ取り組み
まちづくり協議会では、津波被害の大きかった仙台沿岸エリアを「仙台海手エリア」と名付け、人を呼び込む計画を盛り込んでいた。その玄関口となるのが、地下鉄東西線の荒井駅だ。
「昨年までに荒井駅内の『せんだい3.11メモリアル交流館』や、『震災遺構 仙台市立荒浜小学校』『海岸公園冒険遊び場』『せんだい農業園芸センター』といった施設が次々とオープンしました。魅力的な施設はたくさんできているのに、今はそれらがバラバラに機能している。なんだかもったいないですよね。ですから、2019年10月から約1ヶ月間、各所を巡るスタンプラリーキャンペーンを実施したんです」
点在する施設やイベントを5ヶ所以上まわると、「仙台海手いいもの・ほしいもの」という地産品が抽選でもらえる「仙台海手めぐりキャンペーン」。中心部から訪れた人たちに、荒井駅を玄関口として仙台海手を周遊してもらう狙いだ。点と点を結ぶこれらの取り組みは、これまでのまちづくりから一歩進んで、「荒井駅を起点とする仙台海手のプラットフォームづくり」を視野に入れている。2020年は新型コロナウイルスの影響でスタンプラリーイベントは行わなかったが、来年以降は開催を予定しているという。
「仙台海手めぐりキャンペーン」として配られたパンフレット。
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将来に向けたまちづくり
「仙台海手の認知度を上げ、どれだけ人に来てもらえるエリアにできるかが今後の課題ですね。今の状態ではまだまだ足りないものが多いです。例えば、荒井駅から各施設までの二次交通をどうするか。エリア内を循環する小型の低速バスを走らせられないか。『仙台海手に行ってみたい』と思ってもらえるような仕掛けについては、ようやく昨年から考えられるようになりました」
荒井東地区のまちづくりの土台はある程度固まったという榊原さん。震災復興についても、10年が経ち、ハード面の復興は一段落と考えている。これからは、被災した方々の心の復興とともに、新たなコミュニティの構築、街としての成長・成熟を見据え、色々なことに挑戦していきたいと話す。
「まだ具体的なことは決まっていませんが、今後は民間企業とコラボレーションした実験的な取り組みも行っていきたいです。また、『荒井タウンマネジメント』は河北新報と協働して、毎月荒井エリアのお店や人を紹介するフリ―ペーパーを発行していますが、そうやって住民の方々へしっかりと情報発信していくことも、重要な取り組みだと考えています。ありがたいことに住民の皆さんも私たちの活動を徐々に認知してくださっているので、『やってみたいことがあったら荒井タウンマネジメントに相談すれば、企業や行政とつないでくれる』という期待感・信頼感を感じます」
発足からおよそ7年、今では「荒井タウンマネジメント」という組織が「いるのが当たり前の存在」として住民の方々に少しずつ認識してもらえるようになってきているのを感じるという。まちづくり計画の着想時から様々な立場の人と関わり、長い時間をかけて誠実に取り組んできた成果だ。今後も、榊原さんたちが企業や行政との仲介役となり、住民の方々が主体的に関わってもらえるまちづくりを目指していく。
「仙台海手」玄関口でもある荒井駅前にて。外観デザインはかつて宮城県でよく見られていた屋敷林「居久根(いぐね)」をイメージしている
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