STORY 02

環境に優しい自然農法で
田んぼの整備、米作りに邁進。

土壌生物を活かした豊かな土壌づくり

カントリーパーク新浜が結成されてからまもなくは、防災集団移転跡地を農地として使えるよう、様々な努力を重ねて整備した。
「最初は背丈くらいに伸びた雑草があちこちに生えており、土地は荒れ果てていて、とても米作りができるような環境とはいえませんでした。手作業で草刈りを行なったのですが、非常に根気のいる作業でした」
自然農法では、雑草が生えてくるのを抑えるために、米ぬかを散布するやり方がある。土の表面に米ぬかの膜ができると、雑草に日光が当たりにくくなり、発芽が抑えられるという。
「除草はもちろん、土づくりにも工夫しています。例えば、稲刈りが終わった冬の間にも田んぼに水を張る『冬水田んぼ』という農法も行っています。水を張っておくと、稲の切り株やワラなどが水中で分解され、微生物が発生します。それをエサとする虫がフンを落とすことによって、土に必要な栄養分が行き渡り、肥沃な土壌が出来上がるんです」
化学物質を一切使わない澤口さんこだわりの農法で、新浜の美しい田園風景がよみがえりつつある。

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田んぼが整備される前の様子。一面に雑草が生い茂っていた
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メンバーで力を合わせて、米作りができる環境を整えていった

希少な米“ササシグレ”を作りたいという夢を持って

田んぼの整備を終えてから初めに栽培を始めたお米は、かつて宮城の代表品種だった「ササシグレ」だ。食味の良さで知られていたが、倒伏しやすく、立枯れなどを引き起こすイモチ病に弱いといった栽培の難しさから、子にあたる「ササニシキ」に座を譲り、現在では一部の農家が栽培するにとどまっている。
「昔からの宮城のお米を大切に守っていきたいと思い、ササシグレの栽培に着手しました。しかし思うように収量が伸びず、3年目は異なる品種を育てています。ササシグレと一緒に、ここの田んぼも新浜の土地も、昔のようによみがえってほしいとの思いがあるので、これからまたササシグレの栽培を試みていきたいです」

カントリーパーク新浜の田んぼでは、秋に伝統的な「はさがけ」の光景が見られる。はさがけとは、刈り取った稲の束を支柱に掛けて天日で乾燥すること。自然乾燥することで、お米の割れを防いだり、食味を向上させることができるという。

澤口さんは、普段の農作業はもちろん、市民や児童を対象とした田植えや稲刈り体験ができるイベントの企画にも力を入れている。
家族連れの参加者は「農薬、化学肥料を使わないで作られる農産物は、子どもにとっても安心・安全で魅力を感じました。こうした農作業体験は子どもの食育にもつながるので、貴重な機会だと思います」と感想を聞かせてくれた。子どもたちも夢中になって取り組んでいる。街中に住んでいて、普段は農業や自然に触れることがないという参加者が多く、新鮮な気持ちでこの田園風景を見ているようだった。
自然農法の魅力や新浜の豊かな自然を多くの人と分かち合えることが、澤口さんのやりがいにもつながっているようだ。

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黄金色に輝く約60アールの広さの田んぼ
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伝統的な稲の乾燥方法「はさがけ」

様々な生き物がよみがえるビオトープ

澤口さんは田んぼの整備と同時に、新浜の多様な生態系を身近に感じられるビオトープの整備も行なっていた。
「田んぼの隣に、ビオトープも作りました。ビオトープには常に地下から水をくみ上げ、様々な生き物が生息するように環境を整えています。整備して1年目はなかなか成果が出ませんでしたが、2年目くらいからはたくさんの生き物が見られるようになりました。本来の自然環境に近づけてあげることで、もともとの生態系はきちんとよみがえるんだと実感しました」
現在、ビオトープには、メダカやドジョウ、カエル、ゲンゴロウなど多様な生き物が生息している。さらに準絶滅危惧種となっている「ミズアオイ」という植物も可憐な青い花を咲かせる。毎年8〜9月の開花時期に合わせて、ミズアオイの観察会も行なっているという。
「散歩がてらビオトープに立ち寄る地域住民もたくさんいますが、全国からも被災地の復興の様子を見に、ここを訪れる人がたくさんいます。そういった人たちから伝え聞いたりして、カントリーパーク新浜の取り組みが少しずつ知られるようになってきており、とてもうれしく思います」

STORY 03

未来に向けて活動の幅を広げるため
組織の充実化を図る。

活動の幅の広がりに向けて

カントリーパーク新浜はNPO法人化などの組織の充実を目指しているという。
「社会的な信用をさらに獲得していくためにも組織の充実化を考えています。新浜の自然や生態系を守り、自然農法の魅力などをより多くの人と共有できるよう、これまで以上に活躍できる機会を増やしていきたいと思います」

田んぼとビオトープの周辺には、農作業体験などのイベントに合わせて全国から多くの団体が集まる。音楽の演奏会を開くグループや、化石燃料を使わないロケットストーブを紹介する環境団体など様々だ。澤口さんは新たな出会いの機会を大切に、人との交流を楽しみながら、カントリーパーク新浜の活動の幅を広げていきたいと考えている。

農業の担い手を育てるため、2次産業にも力を入れたい

澤口さんは、農業の後継者不足の解消にも取り組みたいと考えている。
一般的に農業は天候に左右され、常に安定した収入を得るのが難しいなどといったマイナスのイメージが持たれており、新規就農者の獲得には結びつきにくいという。農業を始めるといっても、会社の定年退職を機にその道に進む人が多く、なかなか若い担い手が集まらないのが現状だ。
「農家は大半が高齢者で、若い人はほとんどいません。昔ながらの農産物の生産だけでは、広く農業の魅力を発信できないのかもしれません。そのため、お米を使った加工品の開発など新しい取り組みも行い、若い人に関心を持ってもらえるような切り口を考えていきたいと思います」
農業で利益を生むためにも、若い担い手を育てるためにも、従来の1次産業だけでは難しいと考える澤口さん。2次産業にも力を入れることで、若者の関心を引き、さらに若者の柔軟な発想で新しい加工法が生まれてくるのかもしれない。
新浜の自然や生態系を大切にし、その良さをたくさんの人と分かち合い、担い手を育てていけるように、澤口さんは事業のさらなる広がりを目指しながら、被災地の復興に力を注いでいる。

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昔ながらの「はさがけ」で天日干しされた稲の前に立つ澤口さん