STORY 02

大人から子どもまで参加する総合防災訓練。
その必要性を全国に語り継いでいく。

地域防災の先進地域として他地域の見本に

南材地区は、2005年に仙台市の総合防災訓練地域として指定されて以来、防災訓練を活発に行なってきた地区でもある。地域を巻き込んだ防災のあり方を実践していることが注目されていたが、震災時の対応では、2009年から始まった避難所運営の訓練が生かされていたと感じる一方、反省点も少なくなかった。
「当時、南材地区の住民は南材木町小学校と八軒中学校の2か所に分散していたため、地区として避難状況を把握しにくくなっていました。その教訓として、小学校と中学校のどちらに避難するのかを町内会ごとに予め決めておくことにしたのです。南材コミュニティ・センターには、高齢者や乳幼児のいる家庭を優先的に避難させる取り決めがあります」
地区内での被害こそなかったものの、沿岸部の被災地で盗難が発生したニュースを聞くたび、備えておかなければという想いも強まっていた。そこで新たに設けられたのが、災害時に地域の方々を避難所に誘導する防災リーダーと、避難して空いた家屋に不審者が侵入しないようパトロールする町内会の留守番役だ。留守番役が町内を見回ることで、自宅避難者を把握できるというメリットもある。
「2015年度からは、毎年行われてきた『総合防災訓練』を、八軒中学校の生徒や八軒中学校区の地域住民と一緒に実施するようになりました。小学生や中学生も交えることで避難所運営や災害時対応を学んでもらい、将来何らかの災害に見舞われたときに運営員としてきちんと行動できるようになってもらうことが理想です」
震災での経験を踏まえた実践的な避難所運営や防災のあり方。大人から子どもまでを巻き込んだ総合防災訓練の取り組みが、他地域への見本にもなっている。

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南材地区で始まった地域全体での防災訓練は、若林区のほかの地域にも広まっているという

語り部として、地域防災の重要性を発信

南材地区町内会連合会の震災時の対応や、その教訓を生かした地域の防災力向上に向けた取り組みが評価され、菅井さんは「災害伝承語り部」に任命された。これは総務省消防庁による「災害伝承10年プロジェクト」の一環として始まったもので、菅井さんはこれまで15回以上にわたり講演を行い、全国各地に発信している。
南海トラフ地震被災想定地域をはじめ、大雨などによる風水害で地域防災に関心を高めている地域は多いので、どこに行っても熱心に聞いてくれるという。震災の経験を活かした実践的な防災訓練が全国で受け入れられている。
「防災訓練の一環として講演する機会が多いので、現地の訓練に参加させていただくこともあります。他地域の防災訓練を参考に南材地区ではどのように生かすことができるのか、語り部活動を通して私自身が学ばせていただいています」

住民同士が見知っておくことの必要性を、しっかり伝えていく

「世界防災フォーラム/防災ダボス会議@仙台2017」では「地域と防災」をテーマとしたパネルディスカッションに登壇した。そこで強調したのは、災害時の避難所運営が地域との関係によって成り立っていること、そして地域住民同士の「面と向かって言葉を交わせる関係」の大切さだ。例えば、避難先で顔見知りと会うとホッとするし、請われなくても手伝おうと思える。菅井さん自身、震災のときにそれを強く実感する出来事があったという。
「私が八軒中学校での避難所運営に携わったとき、はじめに行ったのは避難所のルール作りでした。しかし既に2日が経過し、その間に自由に行動していた人たちの中には、『ルールを作っても誰も守らないのでは?』と疑問を口にする人もいました」ルールとは、朝食や夕食の時間決めや、避難所では騒がないなど、共同生活では当たり前のものばかりだ。「そこでつい、『最低限のルールも守れないなら避難所を出ていってもらっても構わない』と叱責してしまいましたが、翌日からはきちんと手伝ってくれるようになったので、叱ることもときには大事なことだと感じたのです」
学校の教員では同じようにはいかなかったかもしれない。けれど地域に長く、深く関わってきた菅井さんだったからこそ、厳しくも正しく説くことができ、結果として人を動かすことができた。顔が見える関係の大切さを伝えていきたいという想いは、語り部活動を続ける今も変わらない。

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「災害伝承語り部」として全国で講演を行う際に使用する資料
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お互いの顔が見える関係を、
地域全体で築き上げていきたい。

高齢者をどう避難させるかを考え、伝えていく

災害伝承語り部として全国に先駆けた取り組みをしている菅井さんだが、一方で地域の防災力を強化していく上で課題に感じていることもあるという。
それは、高齢者の避難をどうするかというもの。自力での避難が難しい高齢者が、周囲に頼れる人がいない状況で災害に見舞われたとき、一体誰が助けるのか。「方法としてはいくつかあります。例えばタクシー会社と連携し、災害時に対応してもらえるよう取り計らったり、地元企業に協力してもらったり。最近では学生を中心に若い人が増えているので、こうした人たちに手助けを促す仕組みづくりも必要だと感じています」
菅井さんたちの考えに共感したいくつかの地元企業は、地域の防災訓練だけではなく、花壇づくりのような地域の活動にも参加するようになった。企業と地域のつながりをもっと深め、そのつながりを生かすことで、災害時の対応の幅も広がるはずだ。 こういった高齢社会という時代に即した防災のあり方を考え伝えていくことも災害伝承語り部の仕事だと菅井さんは感じている。

ウィズ・コロナ時代の避難所を検証

近年は地震・津波の被害に加え、台風による河川の氾濫や土砂災害など風水害への関心が高まっている。「消防とも協力し、大雨を想定した訓練も考えています。具体的には、大雨時の道路を水路で再現して歩いたり、巨大扇風機を活用して風速15mの風雨がどのようなものかを体験したり。新型コロナウイルスの流行で今年はできませんでしたが、来年こそは実現させたいですね」
コロナ禍によって活動が大幅に制限され、防災訓練や町内活動はほとんどが中止となった。それでも災害は発生し、避難が必要になる場合もあるかもしれない。そうなったときのため、南材木町小学校や八軒中学校ではソーシャル・ディスタンスを維持した状態でどれだけの世帯が避難できるのか、といった検証も始まっている。
「地域防災で最も大事なことは、お互いの顔を知っているかどうかです。しかし現代では隣人の顔を知らないというのも珍しくありません。地域住民同士の接点をどのようにつくり、関係を築いていくのかということも、考えていかなければならないと感じています」

それでも震災後、訓練に参加する人たちの姿勢は確かに変わった。「震災前はしかたがなく参加している方が多かったのですが、今では自分の身を守るために大切なこととして率先して参加していますよ」
地域全体の防災意識の高まりは、2020年7月に初めて実施された避難先調査アンケートにも表れている。南材地区の全世帯のうち約4割の世帯が回答しており、防災意識の向上に手ごたえを感じた。今後も地域を巻き込んだ活動を続け、地域全体に意識が浸透し、関心を高めていく。そんな未来に向けた取り組みを災害伝承語り部として行っていきたいと、菅井さんは考えている。

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地域防災の重要性を伝えていくため、仙台市地域防災リーダーとしても活躍している菅井さん