STORY 02

課題は「農業」と「コミュニティ」。
様々なプロジェクトが始動。

「ReRootsファーム」と市民農園

現在のReRootsの活動は「農業再生部門」と「農村コミュニティ再生部門」の大きく2つに分けられる。「農業再生部門」で最初に立ち上げたプロジェクトは、農家から遊休地を借りて野菜を作る「ReRootsファーム」と、荒浜や三本塚の遊休地を、農家と協力して仙台市近辺の一般市民に貸し出す市民農園だ。「ReRootsファーム」は、実際に野菜づくりを通して農家と同じ目線に立ち、農家に寄り添った活動を行うこと、若者たちが農業へ関心を持ち、新規就農者を増やすことなどを目的としている。 市民農園は、他地域住民の往来を生み出すこと、遊休地を有効活用して、地域住民と市民農園利用者の交流を生み出しコミュニティ活性化を促すことなどが目的だ。

「『ReRootsファーム』を始めた頃は、農業初心者なのでもちろん下手くそですし、失敗だらけでした。ですが、そうして農家の皆さんと同じ苦労をしながら野菜づくりをすることで、農業の大変さを感覚的に理解できるようになっていきます。若い学生たちが農業に取り組んでいることで地域の期待も高まりますし、やり方を教わったり、農機具を貸し出したりと農家の皆さんとの関係づくりもできました」
市民農園は、季節ごとにバーベキューや芋煮会などのイベントも行っており、地域の方々との交流の場にもなっているという。農家と触れ合い、その土地の風習や文化を学んではじめて、農村の一員として溶け込むことができる。広瀬さんたちReRootsのメンバーは、活動を通じてそのことを実感したという。
さらに、2012年11月には、若林区復興支援ショップ「りるまぁと」がオープン。仙台朝市のテナント(2015年からは移動販売へ移行)や市内で行われるイベントで地元の農家が作った野菜を販売し、復旧を遂げて再生した若林区の現状と、そこで作られる野菜の魅力を知ってもらう狙いだ。

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ReRootsファームは化学肥料でない有機肥料を用い、化学合成された農薬を使わない方法で栽培しており、サツマイモや長ネギ、モロヘイヤなど多種多様な野菜を育てている

住民主体の地域活性化への取り組み

もう一つの活動「農村コミュニティ再生部門」は、地域にもともとあった魅力を発信し、人の往来を作り出す農村ツーリズムや、農村の営みを回復してコミュニティづくりを目的としている。その主体となるのは地域住民でなければならないと広瀬さんは語る。
「津波被害による人口減で、過疎化と高齢化が加速した若林区は、高齢化と後継者不足が課題です。それを解決するには、担い手となる新規就農者=転入者が増えなければなりません。地域住民の方々との交流によって、農業の魅力、地域の魅力は伝わると思っています。つまり『地域おこし』には地元の方々の主体性が必要なのです」

主な農村ツーリズムの活動は「おいもプロジェクト」と「わらアート」だ。「おいもプロジェクト」は、サツマイモの苗植えから収穫まで、年間3回行う農作業体験・食育体験企画。農業に興味のある人や、子ども連れの家族などが全国から参加する人気の企画だ。現場ではReRootsの大学生や地元農家の方々が農作業を教えながら、交流を楽しんでいる。
また、「わらアート」は、稲わらを使った大きなオブジェを作るプロジェクトのこと。稲作を再開した田んぼの稲わらを使い、これまでにマンモスや恐竜など様々なモチーフを製作してきた。2016年からはせんだい農業園芸センターに設置場所を移し、毎年多くの観光客を集める名物企画となっている。今後は地域の方々と協力し、より地域に密着した形で製作を行っていく予定だという。農村コミュニティの営みの回復のためには、祭りなどの地域行事を住民とともに再生してつながりを保つことが重要だ。つながりが切れるとコミュニティは一気に衰退する。さらに高齢化する地域で映画上映や高齢者スポーツといった余暇活動を主催するなどつながりを保つ取り組みとともに、地域福祉づくりのために個別家庭訪問をしながら安心して暮らせる村づくりを目指している。

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「おいもプロジェクト」や「わらアート」は、若林区に多くの人の往来を作り出している

出発点は、「相手の立場で考えること」

ReRootsの大きな特徴は、大学生主体というところにある。卒業とともにメンバーが入れ替わるため、組織運営の大変さも実感したという。
「学生の代替わりには苦労しました。学生にも一人ひとり個性があり、熱量にも個人差がありますから、時には問題が生じることもありましたね」
チームマネジメントにおいて、広瀬さんが当初から大切にしていたのは「必ず相手の立場に立って考えること」、そして、「論理的な言葉にして伝えること」。被災地のボランティアに関心を持ってReRootsに入ってくる学生は少なくない。中には自分なりの理想や熱意から「こういうことがしたい」と強く思っている学生もいる。しかし、それは本当にこの地域の方々のためになることか、ともに地域づくりを行う上で本当にやるべきことなのか、広瀬さんは課題を明確化し、そのプロセスを論理的に考えるよう学生たちに教えているという。
「『対象となる地域の方々が必要としていることかどうか』が何より重要であるというのは、学生たちに常に伝えています。ボランティア精神だけではとても続けられない、現実的な活動ですからね。今は大学2年生がリーダーとなって各プロジェクトの運営を行っていますが、それまで仕切っていた先輩たちの背中を見ているので、その理念や考え方はしっかり継承してくれていると思います」

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復興から「地域おこし」へ
一歩ずつ、着実に進む。

「仙台いも工房 りるぽて」がオープン

そして2020年6月、学生たちが何代にもわたって手掛けてきた「おいもプロジェクト」から、地域おこしの第一歩となるスイートポテト専門店「仙台いも工房 りるぽて」が誕生した。主な商品は、「おいもプロジェクト」などで収穫したサツマイモ品種「べにあずま」を使ったスイートポテト。サツマイモ本来の甘さをしっかり引き出すため、仙台市内でスイートポテト専門店を営んでいた方から引き継いだレシピとその味を引き出すことにはかなりこだわっているという。また、店内では地元農家から直接卸していただいた野菜や、ReRootsが育てた野菜なども販売している。
「『りるぽて』は、人の往来を作り出す農村ツーリズムの一環です。遠方から来てくださるお客さまもいて、おかげさまでオープンから1ヶ月は毎日完売し、午前中で売り切れてしまうこともありました。とはいえ、まだまだこれからなので、地元の方々に愛され続けるお店に育てていきたいですね」
「りるぽて」の収益はReRootsの活動資金となって、若林区のために使われる。広瀬さんは、このように農業を通じて人を呼び込み、利益を地域に還元する仕組みを色々な形で実現していきたいと話す。

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「りるぽて」では、サツマイモの自然な甘さが評判の「りるぽてと」や「いも5コロ」などを販売している

本当の意味での復興はまだ遠い

震災後から若林区のために走り続けた10年間を振り返りながらも、広瀬さんは「今の段階で、胸を張って復興したとはとても言えない」と語る。
「ReRootsの活動をきっかけに新規就農者は5名生まれ、2名はこの若林区で農業をしています。少しずつ実を結んでいるという実感はありますが、まだ10年、20年後の明るい未来を描ける段階ではありません。営農再開や農村コミュニティ再生は突貫工事で行ったようなもの。いよいよこれから、農業の担い手育成や農村コミュニティとしての存続などに取り組んでいかねばなりません」
今は外堀が整い、ようやく本質的な課題に取り組めるというところ。取り組むべき課題は山積みだ。新規就農者を増やすには、空き家の活用や「通い農」でも地域とのつながりを維持する工夫が必要となる。就農希望者に「農村塾」を開いて農業のやり方を教え、地域独特の文化やしきたりを知ってもらい、農村コミュニティに定着できるための取り組みも必要だ。高齢化が進むこの地域において、課題解決は急務と考えている。
「復興から『地域おこし』を成し遂げるためには、やはり地域住民の方々の目線に立つことが重要です。私はよく高齢者が元気な“ひなびた持続する農村”を目指そう、という話をします。無理に発展しようとしなくていい。住民はそれを望んでいませんから、この地域ならではの風土を活かした緩やかに持続する農村を作ろう、と。また、そのためには地域と一体となって取り組まなければなりません。大学生たちの若い力によって、これからもReRootsが掲げる地域活性化を目指していきます」

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「これからも地域の方々とともに、地域の未来を考えていきたい」と広瀬さん