震災発生当時、幼い子どもを抱える親たちは、混乱の中でいくつもの不安な夜を乗り越え、様々な困難と直面してきた。
母親たちの体験談を綴った防災冊子づくりや、被災者・避難母子のためのサロン開催などの震災支援活動を、子育て支援施設の管理運営とともに続けている三浦さん。
人とつながることの大切さや保護者の心のケアなど、子育て世代へ伝えたい、震災の教訓を聞いた。
子どもの遊び場提供のため、
震災からわずか4日で運営再開。
子育てふれあいプラザ「のびすく」は、親子で集えるひろばの提供や、有料での一時預かりも行う子育て支援施設であり、市内に5ヶ所に設置されている。現在、三浦さんは「のびすく仙台」と「のびすく若林」(2017年開館)の管理運営に携わっており、10年前のあの日もいつものように「のびすく仙台」で勤務していた。地震発生が午後だったこともあり、館内にはピーク時よりも少ない十数組の親子が残っていたという。
「突然、ドーンと大きな揺れがあって驚きました。幸いにも物が壊れたり窓ガラスが割れたりするような被害はなく、利用者の皆さんは落ち着いて行動していたと記憶しています。一時預かりのお子さんたちも、お迎えの時間が近かったこともあって、揺れが収まってからすぐに保護者へ引き渡すことができました。一組の親子だけエレベーターに閉じ込められてしまいましたが、数時間後に無事に助け出されてホッとしました」
三浦さんの自宅も無事だったが、仙台市一帯はしばらく停電が続いた。時間を追うごとに明らかになっていく地震と津波の被害に不安が募ると同時に、幼い子どもを持つ「のびすく」利用者の方々の様子も気がかりだった。そんな中、仙台市からの要請で「のびすく仙台」は震災発生から4日後に運営を再開することが決まる。
近所には早々に営業を再開した朝市があり、食料の買い出しと合わせて訪れる保護者や、「怖くて家の中にいられない」と子どもを連れて町を歩いていた保護者など、不安や恐怖を抱える方々が「のびすく仙台」へ集まってきたという。
「私たちは『せんだいファミリーサポート・ネットワーク』として、全国の様々な団体とつながりを持っていました。ありがたいことに、『のびすく仙台』に各地から支援物資が続々と届いたので、子ども向けの物資の提供を行う拠点としても稼働しました」
「のびすく仙台」には、震災直後、四国や九州など各地からの支援物資が届いた
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子どもの笑い声が戻ってきた「のびすく」
再開当初はまだ暖房もつかず、三浦さんたち職員はスキーウェアを着て対応した。ところが子どもたちは、いつもの「のびすく」だと思って早々に上着や靴下を脱いでしまう。保護者が「風邪をひくよ」と心配してもおかまいなし。数日ぶりの遊び場に喜び、元気に館内を走り回っていたという。
「元気いっぱいの笑い声が響いて、それまで張り詰めていた大人たちの心がほぐれていきました。保護者の方々の安心した顔が忘れられません。子どもの笑い声ってすごいなぁって。不思議な力があるんですよね」
少しでも早く「いつも通り」を増やしていくことが復興への第一歩。保護者の方々からは「ここが開いていてくれてよかった」と感謝され、早々の運営再開で大変ではあったものの、「のびすく」がオープンしているという事実で救われる人がいることを実感していた。
母親たちと協力し、防災冊子を発行
「子育て中のお母さんたちが未曾有の大震災とどう向き合ったか、あの日のことを振り返りながら、小さな子どもを持つ親のための防災知識を伝えていきたいと思いました」
震災から半年後の2011年9月、三浦さんがNPO法人「せんだいファミリーサポート・ネットワーク」として作成に携わった子育てファミリーのための地震防災ハンドブック「大切な人を守るために 今できること」が発行された。「のびすく仙台」の利用者200名ほどに行ったアンケートから、災害に関する不安や必要な備えなどの声を多く盛り込んだ内容となっている。例えば、非常時の母乳の悩みに対し専門家のアドバイスが載っていたり、母親自身のメンタルケアや家庭の備蓄品リスト、「揺れや物音に敏感になった」など震災後に起こりうる子どもの変化についても紹介している。冊子内のイラストや文章は、それらを得意とする母親たちの協力によるもの。「少しでも誰かの助けになれば」と快く引き受けてくれたという。
「あの日、あの時、大切な人を守るために一生懸命頑張ったお母さんたちのリアルな声を掲載しています。経験していなければわからないこと、これから親になる人たちに伝えたいことがたくさん詰まっています」
現在発行されている、小さな子どもを持つ親のための防災ハンドブック
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