STORY 02

震災の教訓を後世に伝えるために。
被災経験を活かす防災教育。

新たな校舎で再開した荒浜小学校

震災から1ヶ月余りで荒浜小学校の間借り先が決定した。震災の被害が少なかった内陸部にある東宮城野小学校だ。学校生活が再開し、子どもたちは非常に喜んでいたが、なかなか学習環境が整わず、授業をするにも苦労が多かったという。
「校舎を間借りしていたので、体育館や音楽室、理科室を使うにも、東宮城野小学校と折り合いをつける必要がありました。さらに実験器具や楽器など、様々な教材が不足しており、子どもたちにとって最適な学習環境とはいえませんでした」
そんな中、全国の様々な企業からの支援により、子どもたちに必要な学習教材が寄付された。
「教材のほかにたくさんの図書もいただいて、廊下は本で埋め尽くされるほどでした。多くの人からの支援に、感謝の気持ちでいっぱいになりました」
たとえ学校環境が良くなったとしても、それ以外での生活に問題があれば、子どもたちは落ち着いて勉強することができないかもしれない。そう思った阿部さんは、避難生活を送る子どもたちの様子を見に、仮設住宅を度々訪れていた。
「仮設住宅には、学生ボランティアの姿が多数ありました。彼らは学習ルームを設け、子どもたちの宿題を見てあげたり、遊び相手になったりしていました。子どもたちは学生たちから元気をもらい、うれしそうに過ごしていました」
人と人とのつながりによって得られた支援の手。阿部さんはこれらの出来事を通して、みんなで助け合える関係づくりが大切だと実感した。

自身の被災経験に基づく防災教育

荒浜小学校で1年間教員として勤めた後、何度か異動を経て、2017年に仙台市教育委員会の教育センターに所属することになった阿部さん。教育センターでは、入職したばかりの先生が受ける「フレッシュ先生研修」の企画を行っていた。研修内容には必ず防災教育を盛り込むことが決まっていたので、防災教育の講師として、石巻市にて被災した先生を呼ぶことにした。
「実際に私も研修に参加し、防災教育の講演を聞きました。講師の先生は被災時の経験に基づいて話をしており、私は講演内容に感銘を受けたんです。そして、自分も荒浜小学校で経験したことを広く伝えたいと思うようになりました」
阿部さんは、被災経験のある人の生の声は、より多くの人の心に届くと確信したという。震災時の荒浜小学校のこと、校舎を間借りしてからの学校生活について振り返り、自身の経験を基に、震災の教訓を伝えることに力を入れていった。

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阿部さんは、震災当時の状況について、写真を使って説明してくれた

まずは身近な人から、伝えていきたい

現在、阿部さんは高森小学校の校長として活躍している。子どものうちから防災意識を持ってもらえるように、児童を対象にした防災教育を行うことにした。
「子どもたちに『マグニチュード』と言っても何のことか全く分からない。そもそも地震とは何か、例えば震度7とはどのくらいの大きさの揺れなのか、など、かみ砕いて説明しました。地震や津波のほかにも、落雷、突風、大雨などたくさんの災害があるので、自分の経験を踏まえながら常に万一のときに備えて防災訓練を行うことが大切だと呼びかけています」
阿部さんはスクリーンを使った防災教育や、2017年から震災遺構として一般公開されている「震災遺構 仙台市立荒浜小学校」に見学に行く機会も設けている。
「子どもたちはもちろん、先生たちにも防災意識を高めてもらいたいと思っています。そこで、近々私が講師となって、先生たちのみで荒浜小学校に見学に行く予定も立てています。これからどんどん震災の記憶がない若い先生が増えてくるし、震災の語り部も少なくなってくるので、まずは自分の周りの人から震災の教訓を伝えていければと考えています」

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校外学習で「震災遺構 仙台市立荒浜小学校」を訪れた子どもたち
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スクリーンを使い、震災について説明する阿部さん
STORY 03

自然災害は必ず起こる。
いざという時、みんなで助け合える関係性を。

学校、家庭、地域のつながりを大切に

近年、各地で自然災害が頻繁に起こっている。そして被害の広域化も叫ばれている。災害に備えるには、自助だけでは難しく、日頃から共助の仕組みも考えていくことが大切だと、阿部さんは語る。
「例えば、子どもたちに宿題をしてもらうには、学校だけでなく家庭の協力も必要です。地域で夏祭りを開くとしても、家庭と地域、双方と協力し合わないと難しいと思います。それは防災についても同じことがいえます。災害はいつ、どこで起こるのか分かりません。日ごろから家庭内で会話を増やしたり、地域の人とも意識的に交流することで、いざという時にお互いに助けの手を差し伸べられると思います」
現在、文部科学省で「コミュニティスクール」が推進されている。学校が地域と一体となって、子どもたちの成長をサポートする取り組みだ。阿部さんは今後、こうした活動を通して、地域や家庭とのつながりを強めていきたいという。

地域の自然を愛し、自然災害にも備える

阿部さんが、荒浜などの沿岸部を訪れたときのこと。各地で新施設が整備されていたり、集団移転跡地に田畑が出来上がっている様子を見て、ふと考えたという。
「沿岸部が再生されている様子を目の当たりにして、震災後もその土地に愛着を持ち続ける人はいると感じました。荒浜小学校の児童は地域の人と一緒に海岸清掃活動をしており、美しい海の景色を大切にしていました。津波で被災しても、『荒浜嫌い』『海が嫌い』と言う子どもはいなかったです。自分が生まれ育ったまちを大切にする心や、地域の景色を愛する気持ちはそのままに、子どもたちには必ず起こる自然災害に備え、力強く生きていってほしいと思うんです」
どんな地域でも災害が発生する恐れがある時代になっている。ふるさとの自然を愛するからこそ、正しく自然を怖れることも必要になる。阿部さんは、家庭や地域とともに防災意識を持つことの大切さをしっかり伝えながら、みんなで助け合える関係性づくりに奔走している。

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災害に備えるには、日ごろの訓練のほか、学校、家庭、地域3者の連携が必要だと話す阿部さん