教員の防災力向上とサポートが
「防災教育」充実の第一歩。
震災遺構を伝承の教育資源として活かす
震災後、時間の経過とともに、防災意識の啓発活動における学校教育が秘める可能性について注目されるようになった。そこで小田准教授らが最初に取り組んだのが、震災遺構仙台市立荒浜小学校を活用した授業づくりのための教員用手引書制作である。「荒浜小学校は、学校施設として震災後初めて公開された公の震災遺構です。教員用手引書には年間の活動計画や指導計画の一例を掲載し、校外学習などでどのように活用したらよいのかを示しました。次世代に震災の経験を伝えつつ、安全・安心な当たり前の日常は多くの人たちの努力によって成り立っていることを自覚してもらい、そのために自分には何ができるのかを子どもたち自身に考えさせることが目的です」現在、教員用手引書は英語やタイ語などにも翻訳され、「防災観光」を目的とした外国人観光客向けにも活用されている。2019年には仙台市、そして仙台市教育委員会との間で「防災教育・啓発の推進等にかかる連携及び協力に関する協定」を締結。貴重な教育資源として荒浜小学校を活用した防災教育啓発に向けた大きな一歩となった。
全国の現職教員、そして宮城教育大学の学生も、研修で荒浜小学校を訪れる
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震災遺構仙台市立荒浜小学校にて締結式が行われた。左から村松 宮城教育大学長、郡 仙台市長、佐々木 仙台市教育長
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専門機関・地方自治体との連携
防災対策の主軸を担う専門機関でも、ハード面のインフラ対策だけでは災害から人の命を守ることはできない、という認識が高まっている。「専門機関と教育大学が連携し、教員の防災教育における指導力を底上げすることができれば、より効果的に防災意識の波及を促すことができるのではないか、という考えのもと、2019年度には国土交通省東北地方整備局と共同で『教員のための防災教育ブックレット』を制作しました」
「防災」の授業を最初から組み立てることは、多忙を極める現職教員にとって難しいだけではなく、負担も大きい。教員用手引書やブックレットはそのヒントになるだけでなく、教員自身が防災教育の可能性や奥深さを再認識するためのツールとなっている。また、それらの制作には宮城教育大学教職大学院の学生が携わっている。現職の教員だけでなく、将来教員を志す学生も防災の授業づくりを深く学べる点においても意義がある。
「震災から10年が経過し、震災を知らない子どもが増えてきました。危機感を抱いた人の中には、これを節目と捉え、辛い経験を語り始めた人もいます。記憶の伝承はこうした方々の声と、荒浜小学校のような震災遺構を活用した学校教育の取り組みが、さらに大きな役割を果たすものと考えています」
国内外での研修に尽力
防災は今や世界中の関心事である。2015年に開催された第3回国連防災世界会議では「仙台防災枠組2015-2030」が採択され、世界の防災関係者に「SENDAI」は広く知られることとなった。小田准教授は、海外から仙台を訪れる学校関係者や防災関係者に被災地域を案内し、研修やワークショップを通して教訓を共有する取り組みも行っている。「発展途上国にはハード面での防災対策が難しい国も多い。しかし教員の防災力を向上させる取り組みにはすぐに着手でき、子どもたちに防災教育を実施することも可能です。その重要性を知ってもらうための講演なども行っていますが、子どもの命を守るということについて、教育が持つ可能性を実感してくれる方は世界でも多いと感じています」
国内の教員を対象とした研修も昨年度から年に2回実施している。被災地の実情に触れ、自分たちの地域における防災を考えてもらうためのプログラムだ。「特に南海トラフ地震や首都直下地震の被災想定地域の関心は高いですね。今年は新型コロナウイルス感染症の流行のため、ごく少数での実施となりましたが、研修の仕組みをいち早く整え、定着させていきたいと考えています」
授業づくりのヒントになる、教員用手引書とブックレットは、宮城教育大学教職大学院の学生が中心となって制作した
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タイの学校関係者を対象とした防災研修では、地図を確認しながら各学校の災害リスクについて考えた
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社会が危機に瀕したときに
向き合い方を考える力が助けになる。
防災教育はまだまだ発展途上
仙台市、そして宮城県は、小中学生に向けた「防災教育副読本」を作成したり、県内の公立学校の全てに防災教育の担い手となる「防災主任」を配置するなど、全国的に見ても取り組みは進んでいるだろう、と小田准教授は評価する。「南海トラフ地震や首都直下地震の被災想定地域の教育現場においても防災教育に真剣に取り組んでいる印象を受けます。こうした地域と情報交換していくことも必要になってくるでしょう」東北の被災地には、震災当時のことを語ってくれる語り部の方がいて、伝え継ぐための施設がある。これらを生かし、教育資源として学校教育の現場にどのように取り入れていくかが重要だ。
伝承を通じた学校防災の研修拠点として
教育を取り巻く環境は、新型コロナウイルスの流行によって大きな変革を余儀なくされた。防災教育は、被災地に実際に足を運び、被災者の声を生で聞くことにも意義がある。感染症対策をしつつ、コロナ禍でも発信できる方法を模索している段階だ。「防災とコロナ対策は、いのちを守るという点で共通しています。これまで当たり前にあった生活が突如として変わり、学校現場も中断せざるをえなくなった。災禍に直面した社会が、その危機とどう向き合い、乗り越えていかなければならないのか。防災という枠にとらわれず、広く、いのちを守るチカラを私たちは身につけていかなければならないのだと感じています」
自然災害だけではなく、疫病のような社会の脅威を前に、子どもたち自身がどう向き合い、対応していくのか。その力を身に付けさせるのに教員は大きな役割を果たす。「子どもの意識が高まると、その親や地域の人々にも影響を与えることができます。そのためにも子どもの命を守るという意識を持ち、リスクマネジメントができる教員を育てること。それが、私たちが担うべき役割だと自覚しています」
2030年には、震災を経験していない人が教員になることになる。その前に教育現場の仕組みを整えることが、機構にとって喫緊の課題だと、小田准教授は語る
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