キーパーソンインタビュー

「ともに生き抜く」チカラを育てられる教員が
一人でも多く増えるように。
宮城教育大学防災教育研修機構「311いのちを守る教育研修機構」
副機構長・准教授 小田 隆史さん

ハード面の防災対策だけでは限界がある。避難すべきときに避難するという意識は、自分の命を守ることに直結するものだ。東日本大震災では、多くの人がその事実を痛感した。では、備えるための意識や知識はいつ、誰が、どのように身につけさせればいいのだろう。宮城教育大学防災教育研修機構の考えに迫る。

STORY 01

研究者として故郷・東北のためにできること。
「防災」を、ソフトの面から考える。

震災当時、博士研究員としてお茶の水女子大学に在籍していた小田准教授は、東京の自宅でひどい揺れに襲われた。テレビに映ったのは閖上に津波が押し寄せる瞬間を映した空からの生中継映像だった。「よく知る東北の地が黒い波に飲み込まれていく様子に、言葉が出ませんでした」
福島県いわき市出身。仙台で大学・大学院生活を送り、東北地方にはゆかりがあった。東北のために研究者として自分にできることは何かを考えた末に、海外での都市政策をはじめとした地理学を専門とする従来の研究と、防災教育・啓発活動が結びついた。「身近な地域の自然環境を理解し、備えに活かす。自分たちの街の魅力も発見できる。教育によって子どもたちだけでなく大人の防災意識を醸成することが可能なのではないか。そう考え、国内外の学校関係者や防災関係者を対象とした教員研修機関に赴き、その可能性と重要性を発信しています」

教訓を次の世代に伝える使命感

継続的な防災教育を考える上で重要なのは、子どもたちに防災を教える教員たちの指導力だ。この力を底上げしなければ、効果的・効率的な防災教育の展開、学校現場における震災の教訓を伝え継いでいくことができない。その想いから、2013年4月、宮城教育大学に赴任した小田准教授は、震災の教訓を学校現場に生かしていくための知見を蓄積し、発信するための拠点ともなった「宮城教育大学教育復興支援センター(現・宮城教育大学防災教育研修機構)」のプロジェクトに参画した。
「震災を知らない世代が増えていく中で、同じような悲劇を繰り返さないよう、教育にできることがたくさんあるはず。宮城教育大学は、被災地にある唯一の国立教員養成系単科大学です。その立場を生かし、教育現場での教訓を次の世代に伝えていかなければならないという使命感が、教育復興支援センターでの活動を後押ししました」

全国の現職教員を対象とした研修機構

宮城教育大学防災教育研修機構は、震災直後、被災地域で活動する学生ボランティアを支援するための仕組みを整えるために設立された「みやぎ・仙台未来づくりプロジェクト」が土台となっている。被災地への移動手段の確保、宿泊の手配、保険加入の手続きなど、ボランティアセンターとしての特徴が色濃く出ていた。教育復興支援センターとして改組されたのは同年6月のことだ。ボランティアの派遣だけではなく、被災した学校での教訓を研究者の目線で収集・分析し、伝え継いでいくための手法を研究する。2016年に「宮城教育大学附属防災教育未来づくり総合研究センター」と名称を改め、大学の研究機関として、教員をめざす学生たちへの教訓の発信拠点となった。

「近い将来、高い確率で発生が予想されている南海トラフ地震や首都直下地震にも対応していくためには、もっと広い地域に情報を発信していく必要がありました。そこで2019年、『防災教育研修機構』として再スタートを切り、全国の現職教員にも、3.11の実相に触れ、教訓に学び、活かす研修機会を提供する拠点を立ち上げたのです」宮城教育大学の学生だけでなく、国内外の学校関係者すべてが対象だ。
防災教育研修機構には、もう一つ別の名前が付けられている。「311いのちを守る教育研修機構」。3.11の教訓を伝える一番の目的は、次の災害が起きたときに「子どもたちの命を守る」ことだ。そのために教員は、大人は、子ども自身は、3.11から何を学べば良いのか、問い続けなければならない。ミッションが明確に示された機構の名称には、被災地にある国立の教育大学としての強い信念が込められている。

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子どもたちと常に接している教員の指導力を高めることで、子どもたちにも震災の教訓を広めることができると小田准教授は語る

防災意識の高まりと防災教育の難しさ

震災では多くの子どもが犠牲になった。学校現場では以前にも増して学校防災や防災教育に対する意識が高まっている。特に教員にとって重要となるのが、災害に直面した際に子どもたちが、生涯にわたって自らの命を守るため的確に判断し行動できるようになること。それをどう教えたら良いか、これがなかなか難しい。「どうしたら子どもたちの防災力を高められるか、そのためにどんな教え方をしたらいいのか、答えは一つではありません。防災教育の範疇は幅広く奥深いため、戸惑いや不安を抱く教員が多いのが現状です」防災教育研修機構には、この不安を解消する役目がある。