STORY 02

人から人へ、伝えていく。
命を、地域を、守るということ。

「楽しい」防火・防災訓練で継続参加を

震災を経て、今まで以上に防災・減災は住民ぐるみで取り組むべきだと感じた大内さんら町内会メンバーは、より多くの方々へ伝えるために、年に一度の「防火・防災訓練」に力を入れている。「毎年11月に行う大規模な防火・防災訓練では、『全員参加型』を目指し、小・中学校は授業の一環として参加してもらいます。自分たちの町は自分たちで守る。子どもからお年寄りまで、その意識を持ってもらえるよう、当日は様々な取り組みを行っています」
訓練は、朝一番に町内会班長が自分の班の安否確認を行うところから始まる。避難所である福住町公園に住民が集まったら、みんなで救援物資の搬入、消火訓練をはじめ、段ボールベッドや簡易トイレの設営といった訓練プログラムを実施するのが一連の流れだ。会場では豚汁やカレーが振る舞われ、災害協定を結んでいる団体や、女性の白バイ隊、自衛隊、災害救助犬なども駆けつける。また、昨年から台風19号の浸水被害を受け、水害ハザードマップの紹介ブースも新設された。さらに、ペット同行避難やアレルギー対応の非常食などを紹介する行政・団体のブースも並ぶなど、年々その規模は大きくなっているという。
「最初の頃は参加者が少なく、どうしたらみんなが参加してくれるかを必死で考え、試行錯誤していました。ドローンを飛ばして自分たちの町をスクリーンに映したり、JAFの重機で横転した自動車を助ける実演をしていただいたり…。地域のこれからを担う子どもたちが興味を持って参加してもらえるようなイベントにすべく尽力してきました。防災・減災と聞くと重く考えられがちですが、『楽しい』と感じてもらうことで、継続して訓練に参加してもらうことが大切だと考えています」

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ここ数年は600人以上が参加するという防災訓練。他県からも多くの人が視察に訪れる

いざという時に訓練していないことはできない

通常、学校で行う訓練は、教室から体育館やグラウンドに避難するのが一連の流れだ。しかし、福住町の防火・防災訓練は、まず学校にいる子どもたちを各家庭に帰してからスタートする。災害はいつどこで起きるか予測ができないことから、家にいる時に被災した場合、自分が住む地域の中でどう行動すべきかを学んでもらうためだ。
大内さんは「いざという時に訓練していないことはできない」と強く訴える。すぐそこまで津波が迫っている時などは、まず命を守るために逃げることが最優先。次に、避難所へ避難する時は、災害用リュックの在り処や、緊急時に最低限持っていくものは何か、などをとっさに判断できるよう、常日頃からしっかり把握し、訓練しておくことが重要だ。「例えば、災害リュックに入れるべきものは、お薬手帳やメガネ、子ども用のオムツなど、各家庭、各個人によって違います。自分の地域が山沿いなのか、海沿いなのかによっても、避難時の行動は大きく変わってきます。住んでいる場所によって防災の仕方が異なるので、画一的に『こうすれば絶対に大丈夫』というものはないのです。情報を正しく集め、普段から地域全体で防災のことを考えなければなりません」

講座や講演会で次世代へ伝える

「津波到達点や被災者の数などは、記録にしっかりと残されていますが、記録はあくまで記録。また、津波で流された場所に、新しい公園やきれいな建物ができたりすることはもちろん素晴らしいことです。しかし、美しい景観になればなるほど『ここがかつて、一面がれきと泥水で埋まってしまった』ということは分かりづらくなっていきます。だから私は、人から人へ伝えていくことを重視しています」
大内さんは、震災で得た教訓を若い世代へ引き継ぐため、学校での防災講座や講演などの防災教育に取り組んでいるほか、SBLの有志4名による生涯学習支援センターでの防災・減災講座も行っている。被害の大きかった高砂小学校では、ハザードマップの使い方やアルミ缶の空き缶を利用してご飯を炊く通称「サバ飯」のレクチャーなど、子どもたちが関心の持てるテーマを切り口に、実践的な内容を展開。同じく被災地にある田子中学校では、避難所における女性視点の必要性や、地域で協力し合う大切さなどを伝えている。

また、仙台市内だけではなく、県外でも声がかかれば講演に出向き、危機意識を持ってもらい、地域の防災・減災について考えてもらうきっかけづくりに精力的に取り組んでいる。ここ数年の日本の災害頻度を考えれば、全国どこにいても「絶対に安心な土地」などないからだ。「講演に伺うと、行政によっても温度差があります。『うちの町は地震で断水しても、山の湧き水が豊富だから大丈夫』と仰っていた地域は、その後集中豪雨によって山ごと崩れ、水の確保に苦労したと聞きました。あの時、行政の方々に対してもっと私が強く訴えていたら…と後悔しました。災害の恐ろしさと、地域で防災・減災することの意義を根気よく、しっかりと伝えていくことが私たちの使命です」

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高砂小学校で行われた夏の防災講座と、田子中学校での防災講演
STORY 03

大切なのは「地域のつながり」。
これからの防災・減災について。

町内の夏祭りが防災につながる

福住町には、昔から町内会が主催する夏祭りがある。福住町公園を会場に、2日間にわたって行われるこの行事には、町民のほとんどが参加するという。「露店や盆踊り、スイカ割りなど、かなり大規模なお祭りです。震災前からずっとやってきた催しなので、震災があった2011年も同じように開催しました。他にも、今年はコロナで中止になりましたが、灯籠流しや花火大会もあります。このように地域のお祭りを続けていくということは、みんなが集まって顔を合わせる機会があるということです。同じ地域に住む人の顔を知っておくことで、いざという時に『あの家のおばあちゃん、たしか一人暮らしだったよね』と様子を見に行ったり、助け合ったりすることができます。こうした地域の行事が先細りにならないように、若い世代に関わってもらえるよう働きかけています」

地域の行事がさかんで、住民たちが日頃から顔見知りであるということは、福住町が「災害に強い町」と言われるゆえんでもある。地域の中で自然と「見守り」の体制が生まれ、自分ごととして防災・減災を考えられるようになるという。大内さんは、福住町だけではなく他地域においても、この「地域のつながり」を推奨していきたいと話す。「福住町の事例は他の地域にも当てはまるので、ぜひ実践していただきたいという気持ちで、各地の講演活動を行っています。行政に頼らない地域防災のあり方を考えていくことが、突然の災害時において多くの住民の命を救うことにつながります」

女性の防災リーダーを増やしたい

そして、持続可能な防災・減災の実現に不可欠なものがもう一つある。「現在、福住町の夏祭りの運営を担っているのは、半数以上が女性たちです。彼女たちは子育てをしていたり、仕事をしていたり、家事があったりと、とにかく忙しい。だからこそ、短時間で効率よく準備や後片付けを行う工夫をします。スマートな運営を行う工夫によって、役員の皆さんの負担を減らし、今も続けることができているんです。女性たちが地域で活躍することで、防災・減災のレベルは着実に上がっていくと断言できます」
福住町の夏祭りのように、地域活動の中心に女性がいることで、各家庭の行事参加率が上がり、結果として防災・減災に必要な「地域のつながり」を作ることができる。大内さんは、今後は防災リーダーを務める女性がもっと増えてほしいと願っている。「子どもやお年寄りなど、災害弱者の方々をどうフォローし、みんなで助け合うことができるか。避難所でも感じたことですが、持続可能な防災や減災を実現するには、あらゆる組織で女性の力が必要です。現在、地域で活動するSBLは700名余り、うち女性は181名とまだまだ少ないのが現実。少しずつ女性リーダーは増えてきましたが、これからもっと必要とされるでしょう。男女ともに意識を変えていかなければと思っています」

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大内さんはSBLのほか、せんだい女性防災リーダーネットワーク代表などを兼任し、様々な防災・減災活動を行っている