キーパーソンインタビュー

音楽の力が人々に寄り添い、心を癒やし
地域の再生に向けて、希望の灯をともす。
公益財団法人 音楽の力による復興センター・東北
代表理事 大澤 隆夫さん
コーディネーター 伊藤 み弥さん(写真)
コーディネーター 千田 祥子さん

東日本大震災から2週間後、「音楽の力による復興センター」が立ち上げられた。
設立に尽力したのは仙台フィルハーモニー管弦楽団と市民有志。
演奏家と被災者を取り持つコーディネーターとして9年間の活動を振り返りあらためて実感するのは、音楽が人と人を結びつけ、心をやわらげてくれる“力”だ。

STORY 01

2011年3月26日から始まった
復興コンサートが活動の原点に。

STORY 01は代表理事の大澤 隆夫さんにお聞きしました。

任意団体「音楽の力による復興センター」は震災直後の混乱のさなか、産声を上げた。立ち上げたのは仙台フィルハーモニー管弦楽団(以下、仙台フィル)専務理事(現在は参与)の大澤隆夫さん。仙台市や大滝精一氏(当時東北大学教授、せんだい・みやぎNPOセンター代表理事)への働きかけが実り、震災から2週間後の2011年3月26日、復興コンサートを開催した。「私たちを駆り立てたのは災害によって傷ついた人々の心を癒やし、再生への力を与えてきた音楽の力に寄せる信頼と、仙台で音楽に携わる者としての使命感でした。取るものもとりあえず急きょ設立した組織でしたが、音楽を通して震災の犠牲になられた方々を鎮魂し、ご家族や生活を失われた人々に寄り添い、地域再生のための希望の灯をともすことを目標に、以来被災地域に直接出向いて音楽を届けています」と大澤さん。

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センターの発起人、大澤隆夫さん

人と音楽の出逢いをコーディネート

限られた時間の中、復興コンサートはどのようにして実現に至ったのだろう。「当初は仙台フィルの楽団員をはじめとするプロの音楽家等が様々な場所に出向く無料演奏会として考えました。ただ、被災地でコンサートを行うためには人材の確保が難しい。現場でコーディネートやマネジメントを担う人材が不可欠です。そのために設立したのが音楽の力による復興センターでした。いろいろと問題はありましたが、仙台フィルの楽団員も事務方も『やろう!』となってくれた。楽団員だって被災し、音楽から離れ、辛い思いをしていたのに皆が前向きでした」 第1回復興コンサートの会場はJR仙台駅からほど近い佛光山見瑞寺。境内にある籾江(もみえ)道子バレエスタジオへ仙台フィルのメンバー32名が駆けつけ開催することとなった。

第1回復興コンサートは予想以上に大きな反響をもたらした。以後宮城県内はもとより、岩手県や福島県などエリアを広げ、仙台フィルの楽団員や多くのフリーランスの音楽家の協力を得て2020年9月の時点で延べ900回以上開催されている。「ここまで継続できたのは、音楽家自ら感じた手応えがあったからこそ。音楽の力が社会に役立つことが実感できました。それが次へとつながっていった。そういう意味でも、2011年3月26日は忘れられない第一歩を踏み出した記念すべき日になりました」

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佐藤寿一氏の指揮のもと、第1回復興コンサートが開かれた(画像は鏡像)
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コンサート会場となった見瑞寺の山門には来場を呼びかける看板が

選曲や歌詞に気を配る

復興コンサートでひとつの節目になったのは、2013年4月25日に仙台市宮城野区出花集会所で行われた「出花スマイルコンサート」での出来事だ。「住民から『みんなで声を出して歌いたい』という要望があったんですよ。震災から2年が経って、気持ちがちょっと前向きに変わってきたんだと思います。それを演奏家に伝えたらプログラムの半分以上を歌える曲にしてくださって、来場者にとても喜ばれました。歌ううちにお客さんがいきいきとしてきて、その歌声に演奏家も元気をもらっている様子がひしひしと伝わってきました。音楽を通じて心の交流が生まれていることを実感しました」
この経験が後年、シニア合唱団結成や復興公営住宅での歌の会活動へとつながっていく。

選曲には気を配るが、言葉がある「歌」の場合はもっと神経をつかう。「たとえば『青葉城恋唄』の歌詞に『あの人はもういない』とありますし、当初は海を想起させる曲も遠慮しました。誰もが知っている『故郷』もデリケートな曲で、大切な人を失った方や、故郷に帰りたくても帰れない方々にはつらい曲です。復興が進み、人々の気持ちも変わってきているので、今ではこれらの曲を演奏できる雰囲気になりましたが、その地域の方々の気持ちに配慮することは今も心掛けます」
そんな中、重要な役割を果たすのがご当地ソングだ。「地域の人たちの誇りであり、その土地の記憶でもあるんですよね。演奏すると、とたんに客席が生き生きします。そうすると演奏者も高揚してきて、会場全体が一体感に包まれます」

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避難所の体育館へ音楽を届ける。その場でじっと聞き入る人々。通路を通って帰る時、拍手が起きることも(2011年 石巻市にて)