震災から1年が経過した2012年3月11日、「わたしたちは忘れない〜世界に伝える“ありがとう”〜」と題してロウソクを灯したコップで文字を描くキャンドルナイトを実施し、世界中からいただいた支援に対する感謝の想いを発信した。この希望の光は、これから復興へ進む道を照らす光となるものだった。その後も震災の風化防止と防災意識の向上を目的に事業は継続され、仙台青年会議所と学生ボランティアが連携しながら実施。毎年、心のこもった様々なメッセージが書き記された数千個の紙コップで、大きなキャンドル文字が作られてきた。2018年からは、毎年ボランティアで共に活動していた高校生が主体となる実行委員会が企画・実施していくことになった。実行委員会の皆さんが、これまでの歩みと今後の課題や展望について語った。
高校生が消えかかった光を灯した
県内で活動を繰り広げる高校生のボランティア団体「高校生連携協議会」は、3.11キャンドルナイトの企画・運営の中枢を担っています。実行委員会における高校生の役割とはどのようなものなのでしょうか?
金ヶ崎 3.11キャンドルナイトは、仙台青年会議所が「国内外から寄付金をいただき、支援していただいたことへの感謝の気持ちを伝えるために何かできないか」という想いを抱く中、仙台市からも相談を受け、開始したイベントです。阪神淡路大震災後の復興イベント等を参考に、キャンドルを灯しながら集い、想いを共有することにしました。
河合 話を始めたのは2011年の11月か12月頃。会場は勾当台公園市民広場を確保したものの、とにかく時間がなかった。関係者一同が試行錯誤して、やれる限りのことをやろう!と腹をくくりました。ただ、どうせやるんだったら、キャンドルを灯すだけじゃなく、歌も交えて鎮魂の意味合いをしっかり持たせたいと考えました。
北谷 私は2013年に青年会議所に入会し、早瀬さんが議長に就任した2016年に副議長を務めました。そこで3.11キャンドルナイトに関わり、高校生との出会いがありました。2016年に青年会議所を退いた後も、高校生たちとのつながりはずっと続いています。彼らと一緒に震災復興イベントに携わることができて、とても誇りに思っています。
金ヶ崎 3.11キャンドルナイトの初期段階から高校生とは強く連携しています。大学生は行動範囲が広く、震災復興でも実働している学生が多かったのですが、高校生には行動力としっかりとした想いがあっても、それをなかなか課外活動として生かしにくい状況がありました。学校の外で、自分たちの想いを具体化して実践する場が足りないと感じていたようです。そこで活動を私たちがサポートして、彼らに色々な経験を積んでもらいたいと考えたのです。
早瀬 私は4年間携わる中で、様々な経験を積むことにより高校生がのびのびと成長していく姿を目の当たりにしました。一生懸命活動する彼らと接しているうちに、この事業をいずれは高校生に引き継ぎたいと考えるようになりましたね。
河合 そのような中で、2012年から毎年開催されてきた3.11キャンドルナイトを、予算の都合で終了するという話が仙台青年会議所内で持ち上がりました。2017年秋のことです。今日ここに集まっている4人のほか総勢8人(現在の実行委員会の大人メンバー)でやる、やらない、と何度も話し合いを繰り返しました。もう喧々がくがくですよ(笑)。やることが決まってからも、やるならどういう形で行うか、また白熱した議論に(笑)。私にとっては、この年が一番忘れられませんね。
金ヶ崎 私たちとしては、未成年を預かった課外活動ということで、重い責任を感じていました。その一方、3.11キャンドルナイトという事業そのものが大切なのだという想いは強かった。この時「自分たちでやりたい」と高校生から声が上がったんですね。なくなりかけたキャンドルの光を灯したのは彼らだったのです。ここから関係部署との調整や資金繰りは私たち大人が担うことになり、高校生主体の事業へと舵を切ることになりました。
河合 資金の調達は大きな問題だったね。イベントを行ったとしても赤字だったらどうするんだ、と大人たちの間では再び喧々がくがくですよ(笑)。
金ヶ崎 当日の事故や怪我も心配されました。3月11日が平日の場合、高校生の公欠を取る問題もあって、教育委員会や学校を回り、計画書をお見せして協議してもらいました。
北谷 大人が発信するより、高校生が発信する方が伝える力は大きいですよね。一般の方の反応からも、それは実感します。
早瀬 私は3.11キャンドルナイトに携わる中で、これは次の世代に引き継げる事業だと確信しました。だからこそ高校生の力には大いに期待しています。また、イベントをやり終えた後の、高校生たちのあの表情には感動させられますよ。あの表情を見てしまうと、また来年も一緒に頑張ろう、という気になります。
一つ一つの紙コップに記された、想いのこもったメッセージ
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2018年は「むすび〜未来へつなげる伝承の輪」をテーマに開催された
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2019年は伊東洋平さんと聖ドミニコ学院小学校合唱部によるコンサートを開催
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自分自身の想いを伝えることの難しさ
北谷 2018年の開催時には、東京の女子大生がボランティア活動をするために夜行バスに乗って来仙したところ、たまたま仙台市役所の窓口でこの日3.11キャンドルナイトが開催されることを知り、ボランティアとして飛び入り参加してくれたのです。イベント終了後は再び夜行バスで東京へトンボ帰り。彼女は翌年もやって来てくれましたよ。
押野 2019年には関西からボランティア団体も訪れました。来年もコラボできたらいいね、と話し合っていたのに2020年はイベント自体が取り止めに。でも、他の地域の人たちとつながりが持てたのは、自分にとって大きな収穫でした。
佐々木 自分は一度も3.11キャンドルナイトの本番を経験していません。2020年の開催に向けて準備を進めていたのですが…。準備期間中にNHK少年少女合唱団の練習を見学しに行ったところ、自分の目の前にいる子たちは、全員震災を経験していない子ばかりでした。彼らに震災について話しているうちに、どんどん当時大変だった記憶が蘇ってきました。ただ、自分自身が体験した震災の状況を正確に伝えることは容易ではありません。震災を知らない子たちにどう伝えれば良いのか、伝えることの難しさにも気づかされました。
小原 私は2019年に1日ボランティアとして参加したのが最初です。紙コップに書かれたメッセージをステージで発表する係でしたが、コンサートで歌ってくれた歌手の伊東洋平さんに気さくに声をかけていただき、他のボランティアの皆さんからも助けてもらって、とてもいい経験になりました。
河合 私たち大人が主導していた頃は、自分たちが一生懸命やればいい、と考えていたけれど、高校生が主体になってからは、彼らにテーマと実施する意味を深く考えてもらうことにしました。ディスカッションを重ねて、時には宿題を与えたりして。徹底的に深掘りを求めました。社会人が仕事で企画立案するのと同じくらい、高校生に知恵を絞ってもらい、じっくり考えてもらいました。高校生にとっては衝撃的だったと思いますよ。
押野 かなり衝撃的でした(笑)。テーマを絞り込むのに1ヵ月近くかかりますし、アイディアを出しても一つ一つ詰めていくのが大変。震災について自分自身がちゃんと考えないと、想いは浮かび上がってこないですね。
金ヶ崎 震災や復興にどういう想いで向き合うか、皆の心を一つにしていくためには、どうしてもテーマ設定は重要になります。そのためにお互いが意見を出し合い、議論することも大切なのです。現在は2021年の開催に向けて、議論の真っ最中ですよ。
佐々木 テーマにどういう想いを込めるかを考えるのは大変ですね。
小原 単にかっこいい言葉(フレーズ)を持ってくるだけではダメ。私たちの想いがしっかり伝わらなければなりません。何故そのテーマにしたのか、趣旨説明も行う必要があります。議論を重ねる中で、テーマを決めることがこんなに大切なんだ、ということを私は実感しています。
金ヶ崎 私たちはできるだけ高校生の主体性を尊重してあげたいし、これからも見守り続けていきたいですね。
高校生たちがアイディアを出し合い、時間をかけてテーマを絞り込んでいく
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2018年に開かれた「みやぎ防災・減災円卓会議」では3.11キャンドルナイトの事業報告を高校生自らが行っている
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