「教え、教えられ」の関係で、地域とのつながりが深まる
丹野 社会福祉協議会さんやボランティア団体さんなど、地域の方といっしょに災害食を考えるという取り組みはすごく魅力的なんだけど、実際どのようにすすめているの?
三浦 まず地域の方からの依頼を受けたら、料理教室をどのような目的で、どのようなカタチで開催するかを聞き取ります。その内容を受けて、水・電気・ガスを極力使わず、簡単に調理できてアレンジしやすいものや、小さなお子さんやご高齢の方にも美味しく、楽しく食べられるよう工夫したものなど、大学で学んだ知識を活かして皆で意見を出し合いながら何度も試作を繰り返します。あと、提供する料理のレシピや減塩のポイント・備蓄のポイントなども載せた指導用のリーフレットも作成しています。
門馬 依頼のあった地域をみんなで担当分けして対応しています。私も市民センターで親子の料理教室を実施したのですが、教えた経験が全然なかったので、不安でいっぱいでした。ですが、考えていたことや想いが伝わった時はやりがいを感じました。
鈴木 私も水の森地区で防災食の料理教室をしたのですが、ベースとなる料理のスキルは主婦の方々の方が断然上。「こうしたほうがいいよ」というアドバイスがいただけたのも良かったです。
佐藤 そう。皆さん防災に興味のある方で「こうしたほうがいいよ」「これだと作るの難しいかな」といろいろ考えてくれますね。とても勉強になります。ただ、洗い物用にウェットシートを用意すれば、水の節約になると伝えた時は「さすが若い人のアイデアだね」って褒めてもらえました。
丹野 いろいろな世代の方に関わっていただくので、地域の中で育てていただいている感じですね。
三浦 料理教室を通して参加者の方からより簡単にできる方法を教えていただいたり、小学生や高校生、親子連れに参加してもらうなど、様々な世代の方との交流も生まれています。防災訓練にもFASとして参加させていただいたりと、発信するだけでなくいろいろな知識を吸収させてもらっています。
佐々木 FASの取り組みは災害食のレシピを用いた料理教室の開催を通して、地域コミュニティづくりにも貢献できていると思います。この地域との取り組みが評価され、平成29年度には、若者が参加する団体で行う社会課題解決のための活動を表彰する「仙台若者アワード」で優秀賞もいただいています。
地域の料理教室で災害食のレシピを中心に防災の知識を提供
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FASの取り組みが評価され、平成29年度「仙台若者アワード」にて優秀賞を受賞
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10年を経た今、防災意識が薄れることに危機感
丹野 東日本大震災から10年が経過して、徐々に防災意識が薄れてきています。そんな中で、皆さんはこのFASの活動に参加してくれています。改めて、どういう想いでこのサークルに参加したか聞いてみたいですね。
結城 大学に入ったので授業以外にも想い出になるようなことをしたいなと。勉強していることを活かしながら、地域の人とふれあいたいと思ったのがサークルに入った理由です。
丹野 以前から災害食は知ってた?
結城 言葉では知っていましたが、美味しくないだろうな、と思っていました(笑)試食してみて「あっこんなに美味しくできるんだ」と思いました。こういう風に工夫すると美味しくなるんだと勉強しているところです。
門馬 私自身、東日本大震災の時に備蓄がなく、地域の人からの差し入れをいただいてなんとかなったことがありました。その経験をもとに、管理栄養士となり、災害時に不足してしまう栄養面にも考慮した災害食のレシピを作れたらいいなと思っています。
鈴木 私と同年代の若い人たちの防災意識の低さに危機感を感じています。自分が学んでいることを活かし、若い人も含めて防災意識を高められたらいいなと思ったのがサークルに入ったきっかけです。
佐藤 そうですね、私のまわりでも防災意識の低さを感じます。普段勉強していることを活用して災害時に活かすことができないかと考え、説明会に参加しました。災害時の食事ってどういうものなんだろう、というところから知りたいと思っています。
菅原 私は南三陸で被災して家が流されてしまい、実際に避難所生活を経験したのですが、仕方ないこととは言え、食事の衛生管理ができていなかったことが気になりました。やはりどうしたらいいか知らなかったからこうなるのかなと。若い世代から変えていければと思ったのです。
丹野 年が経つにつれて、防災意識は薄れていますが、「食」というものは身近に災害時のことを考える機会を提供してくれるはずです。そういう意味でFASの取り組みはとても重要ですよね。
佐々木 誰もが普段から接している「食」なので、この食のチカラを使って、震災を経験していない若い世代にも震災のことを伝えたり、防災意識を高めることができるのではと思っています。
防災意識が低くなってきている中で、災害食を通して意識を高めてもらう取り組みが必要だという |
災害食を通して、震災を経験していない地域や世代にも届けていく
丹野 災害食って道具が限られているから、逆に普段料理していない人でも簡単に調理することができますね。FASでは包丁を使わない方法を考えていますから、子どもたちにも安心して料理教室ができます。
佐々木 以前、長岡京市に呼んでいただいて、「パパの防災力もりもりUPプロジェクト」というものを開催しました。お父さんと子どもだけの料理教室でしたが、とても好評でしたね。
佐藤 調理に慣れていない人もできるから、料理のできない方にもニーズは広がりそう。
三浦 仙台防災未来フォーラムで提供した「豆腐とツナのナゲット」は評判でした。すごく簡単な料理だけど、反響があってびっくり。
丹野 今年「防災ハンドブック」をFASのメンバーに作ってもらいました。その中に洗い物を少なくする節水レシピとして「切り干し大根サラダ」を入れています。ひじきやにんじんやきゅうりを入れることもできて、災害時に不足する食物繊維を摂れるのでとてもいいレシピだと思います。
佐々木 身近な食を通して私たちの取り組みは少しずつ広がっていて、C4Cさんの紹介で愛媛県にも呼んでいただきました。FASはもともと地元の食材を使う地産地消がテーマ。愛媛ではみかんジュースご飯を提案しました。地元の皆さんも自分たちの地域の特産を使ってくれたのでとても感謝してくれました。「こういう使い方もあるのね」「しかも美味しい」という声をいただきました。防災力を高めてもらうこともできていますね。
門馬 災害食を通して、震災を知らない地域の方々や子どもたちにも、私たちの経験や食の大切さ、防災の知識を伝えていきたいですね。
佐々木 限られた環境での調理技術を活かし、カンボジアで離乳食を広めるプロジェクトに参加しました。C4Cの方々にお声がけいただき、タイ料理教室と国際交流もしてきました。私たちはすき焼きと切り干し大根サラダを提供しました。ささやかながら国際貢献にもつながっていると自負しています。
様々な団体が防災の取組について発表する「仙台防災未来フォーラム」にも参加。幅広い年代に好評を博した
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「防災ハンドブック」の作成もFASの活動の一環
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京都府長岡京市社会福祉協議会の「フセマルプロジェクト」の研修会に招待を受け、活動紹介と試食の提供を行った |
どう広めてどう続けていくかの模索
震災から10年。今後どんなカタチで活動の輪を広げていきたいですか?
丹野 今、全国いたるところで、自然災害が多発しています。災害食を日頃から学んでおくことはとても大切だと思っています。ぜひ、皆さんの活動を広げてもらいたいですね。皆さんの取り組みは、大学からもとても評価されているんですよ。本学の嶋田順好学院長からは会うたびに「学生の皆さんの活動に期待しています」と言われています。
結城 評価いただいてとてもありがたいです。FASのようなサークルは、他の大学ではないのでしょうか?
佐々木 1団体で継続的にやっているところはあまり聞かないですね。その意味でも今後も続けていって欲しいです。
三浦 ただ、今コロナ禍ということもあり、いっしょに食べることが難しいのは事実ですね。先日、今後どういうカタチでサークル活動をしていくか、ミーティングを実施しました。出て来たアイデアが、今まで毎年やってきた活動の振り返りと、貯まってきたレシピをアーカイブしたリーフレットづくりなどです。
菅原 やはり地域の人たちに防災意識を高めてもらうことが第一の目的。だったら動画で配信して、私たちの活動を知ってもらうのがいいのではと思います。
結城 今年はコロナの影響で、思うように活動できませんでした。料理教室で発信できていないので、動画やSNS、ホームページとかでもっともっと活動の幅を広げていきたいですね。
鈴木 防災に関心のない人にも知ってもらう必要があります。WEBやSNSで拡散すれば、関心のない人にも届けていけるはず。
門馬 あと、自分たちの災害に対する知識を深めていきたいですね。どういうものがあるのか自分自身で知識をつけていきたいです。
佐々木 災害時の食と言っていますが、日常的にできていないといざというときに役に立ちません。備蓄に関しても、賞味期限が切れていないか日頃からチェックする習慣をつけないといけません。災害食を特別なものにしないように活動を通して伝えていきたいですね。
門馬 日常と非常時の場面の違いをなくすということが大切ですよね。
佐々木 食は生きていく中で重要な活動です。もっと身近なこととして子どもにも大人にも伝えていけたら、自然と地域の防災力を高めていくことができます。皆さんにはぜひ後輩を指導して活動をつなげてほしいです。
丹野 「食で笑顔を届ける」という想いを込めたFood and Smile!はとても素敵なネーミングだなと思っています。栄養学の観点だけではなく、カラダにもココロにも栄養を与えられる活動をして欲しいです。FASの活動が続いていくことで、今後災害が発生したときにも、次は、ビタミン剤ではなく、「食」を届けることができます。これは食に関わるものとしてうれしいことです。ぜひ学生の皆さんには、活動を続けていってほしいと思っています。
初代校長であるE.R.プールボー氏にちなんで
「プールボー・キッチン」と名付けられた 「可動式キッチン」を前に。 東日本大震災の経験をもとに、 災害時でも加熱や水を使用して食事を摂ることができる調理台兼テーブルとなっている。 |
災害食を通して防災意識を持ってもらうために地道な取り組みをしていきたいという想いで
活動するFASのメンバー |
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