ボランティアステーションは、気持ちを後押しする場

松坂 東北学院大学を志望した理由こそ、ボランティアステーションで活動したいという想いでした。私は内陸部出身で、震災時に自宅や親戚に被害があったというわけではないのですが、小学生ながらガレキ撤去など何か手伝いをしたい、と当時から思っていました。でも小学生の自分では力不足だし、当時は行くこともできなかった。高校3年生で進路を考えていたときに目に入ったのが東北学院大学の災害ボランティアステーションだったんです。ここでなら、自分がずっとやりたくてもできなかった災害ボランティアができるかもしれない、と。

其田 大学選びのきっかけがボランティアステーションだなんて、とてもレアな学生ですよね。そういう新入生がもっと増えればいいのに(笑)

松坂 ボランティアに関心のある人は最初の頃よりやっぱり減っているんじゃないかと思います。学生スタッフは全体で50名ほどですが、1学年あたりの入学生は現在、約2800名いますので、やはり少ないなという印象を受けます。震災を経験したから入った、という人も。そういう意味では鈴木さんもレアかも。

鈴木 気仙沼出身で実際に家も町も流されてますからね。津波自体はそれまで3、4回経験してきましたが、高くても1メートルくらいだったから、大したことないだろう、と思っていたのは覚えています。地震が起きたあとは山の上にあった親戚の家に避難していたのですが、海が燃えているのが見えたときは怖かったです。

其田 ボランティアに関心を持ったのはそのとき?

鈴木 そうですね。支援物資をもらいに避難所に行くことがあって、そこでボランティアの人たちが炊き出しとかをやってて。有り体に言ってしまうと「お金にもならないのにどうしてここまでしてくれるのだろう?」と子ども心に思っていました。それがきっかけで、自分もやってみようと、高校時代に語り部活動をやっていました。

松坂 ボランティアステーションには現地で活動だけ行う一般ボランティアと、企画・運営まで行う学生スタッフがいます。学生スタッフになりたいという希望者には一度面接をして適性を見るのですが、鈴木さんの話を聞いたときは「すごい人が来たな」と思いましたね。被災した学生はやっぱり自分とは見方が違うし、被災地での活動に対する想いはやはり人一倍強いのではないかと感じます。

其田 横田さんはなぜボランティアステーションに?

横田 私自身は、二人みたいに災害ボランティアをしたいという強い想いがあったわけではないんです。ただ漠然と、「大学に入ったら誰かのために何かしたい」と思っていただけ。考えついたのがボランティアでした。「災害ボランティア」と聞くとガレキの撤去とか泥掻きとかをイメージしていたのですが、「実際どんな活動をしているのだろう?」と思って調べてみると災害復興公営住宅で高齢者を対象にしたサロン活動もしていると知り、「やりたい!」と思いました。

伊鹿倉 「ボランティアしたい」という学生は、潜在的には少なくないのだと思います。ただ実際に行動に移せるかどうかは別問題。気持ちはあるけれど一歩が踏み出せない、どう踏み出したらいいか分からない、という学生にきっかけや枠組みを提供するのが災害ボランティアステーションの役割なんですよ。

其田 震災から数年が経って「今どんなことをしているのか?」と調べてくれるのはいいことですよね。活動だけを見ると、今は高齢者や子どもたちとの交流活動が多く、ほかのボランティア団体との区別がつかない。でも実際は復旧活動を経て仮設住宅入居者への支援を行い、今はコミュニティ再生の手伝いをしているという、設立当初から今につながる流れがある。そのバックボーンは大切にしていきたいですね。

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東北学院大学にはボランティア団体がほかにもある。それでも災害ボランティアステーションにひかれるのは、ボランティア意識が芽生えたきっかけが震災だったからにほかならない

ボランティアのあり方、伝承の仕方は一つじゃない

松坂 ボランティアと聞くと災害現場で活動するというイメージが強かったので、想像と違うことを強く実感します。沿岸部で今求められているのが何なのか、ということも考えるようになりました。山元町で地域イベントの運営補助や誘導、販売の手伝いなどをしたときに特に思いましたね。ボランティアのあり方は一つだけではないし、色々な関わり方がある。そこに幅広く対応しているのがボランティアステーションなんだなと思いますね。

伊鹿倉 松坂君は災害ボランティアがやりたかったんだっけ?

松坂 はい、ボランティアといえば災害支援のイメージがあったので。実際、高校生の頃に大崎市の渋井川が氾濫したときには、被災した親戚の家の片付けに行った経験もあります。大学に入学してからは、2018年の西日本豪雨のとき、広島にボランティアに行きましたが、ボランティアステーションでは災害以外のボランティア活動も多く、内容の幅広さに驚かされました。

鈴木 それは私も感じました。高校生の頃にやっていた語り部を続けたかったというのもあってボランティアステーションに入った経緯があるので、語り部活動の少なさにギャップを感じましたね。

其田 バスツアー企画とかで語り部をやってみたらいいんじゃない?

鈴木 実は他大学でやってるんですよ(笑)ボランティアステーションでもやりたいとは思っているのですが、今年は新型コロナウイルス(以下、コロナ)の流行もあって活動が大きく制限されてしまっていますし。でも、私は経験したから話すことができるけど、松坂さんは津波を経験していないのに語り部をやっているからすごいなと思います。

 でもこれからは、松坂君や鈴木君のような震災に対する想いが強い学生より、横田さんのように「人のために何かしたい」という想いを持った学生の方が増えてくるだろうね。ボランティアステーションの意義を明確にするという意味では、語り部のような震災当時の要素を盛り込んだプログラムをつくり、伝承につなげることも大事なのではないでしょうか。

其田 沿岸部で津波を経験した人しか語り部はできない、というイメージも取り払うべきですよね。松坂さんのように、たとえ経験していなくても、現地の人たちとの交流の中で信頼され、山元町の「語り部親善大使」に任命される人もいるくらいなんだから。

横田 ボランティアって、自分から動かないといけないなって思いますよね。高齢者を相手にしていても、自分から話しかけることで相手の考えにふれることができる。このコロナ禍で活動の形が変わり、「どうしたらいいのか?」ということも考えなければならない。そういうところで自分も成長したなと感じます。

 こうして意識の高い学生が集まって話を聞くと本当にすごいなと思いますよね。自分が学生の頃だったら考えられなかったと思います。

其田 今は日本全国どこでも災害が起こるし、メディアで常に情報が届けられるから、学生自身が考えられるようになるんでしょうね。震災から10年が経つ今でもボランティア精神のある学生が集まってきて、これからの社会を担っていくと考えるととても頼もしく思うし、ボランティアステーションとしてサポートしていきたいですね。

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震災で大きな被害を受けた石巻市雄勝地区では、復興への願いを込め、オリーブを植樹した
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七ヶ浜町の復興公営住宅では高齢者に足湯を楽しんでもらう取り組みも行った。サロン活動を通して喜んでもらえることが、横田さんたちにとっての活力になっている

コロナ禍で加速する人集めの難しさ、それでも続ける大切さ

松坂 どこの団体も頭を悩ませるところですが、ボランティアは人集めが本当に難しい。特にボランティアステーションでは現在7つの地域を受け持って、各地域を一つのグループが担当して行動するからどうしても人数が必要になる。でも、ボランティアへの関心の薄れに加え、コロナで活動ができなくなってしまったのが痛かった。

鈴木 ビデオチャットサービスを活用した説明会もやっていますがなかなか集まらないし、「いま活動しているんですか?」と聞かれると何も答えようがない。したくてもできない状況が続いているんですから。

其田 ボランティアは現地に行ってこその活動なので、画面上での説明だけでは限界がある。何かしら対策をとって、現場に行けるような体制を整えたいですよね。

鈴木 活動内容を実際に体験してみて、「入ろう」って思ってくれる学生もいるので、それができないのは痛手ですよ。

其田 でも「活動をしているのか」という問いの裏を返すと、その人は活動をしたいと思ってくれているということ。そうした人たちのためにも、徐々に活動を再開していける糸口を探っていかないといけないですよね。例えば、移動時間が長くなる遠方は避け、近郊の地域から徐々に再開していくとか。

鈴木 これからは私たち2年生が中心になって活動していくことになるので、メンバーでも話し合いを進めていく予定です。

伊鹿倉 学生が現地の方々とどう調整し、活動を継続していくのかをサポートするのが我々教職員の仕事。私から「こうしなさい」と言うことはできないですが、学生の意見を尊重し、できる限りサポートしていきますよ。

其田 ボランティアは続けることが何より大事ですからね。これから入学してくる学生にこれまでの活動を伝え、つなぎ、同時に未曾有の災害に直面した被災県の大学として日本全国に発信していくことが、災害ボランティアステーションのこれからの役割になってくるのではないでしょうか。

 本当は災害が起こらず災害ボランティアも必要なくなることが一番なのですけれどね。それでも毎年どこかで災害が起きてしまう。ボランティアステーションは日本各地の大学とも連携しているので、ネットワークを生かした協力体制を築きあげていければと思っています。

伊鹿倉 本来、現地で行うボランティア活動が、コロナの流行で大きく制限されました。しかしどういう状況下でも活動を継続していけるような仕組みづくりは、この機会だからこそ必要になる。今後同じような状況が起こらないとも限らない以上、教職員と学生が一丸となって取り組むべき課題でしょう。

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就活が始まればボランティアステーションに関わる時間が少なくなる。その限られた時間の中で、学んだことや経験を後輩に伝えていかなければならないという責任を松坂さんは感じている
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現在は副代表として活躍する鈴木さん。今後は、語り部活動を本格化し、松坂さんのように、震災を経験していなくても語り部ができるよう体制を整えたい、と意気込みを見せてくれた
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災害復興公営住宅に暮らす高齢者の孤立化は、震災だけではなく全国の災害現場でも大きな課題になっている。そのモデルケースとして、活動を発信し続けたいと横田さんは語る

災害ボランティアステーション、新たなスタートへ

2023年、若林区の仙台市立病院跡地に現在建設中の五橋キャンパスがオープンし、多賀城キャンパス・泉キャンパスで学ぶ学生が土樋・五橋エリアに集うことになります。災害ボランティアステーションとして、今後どのようなことを期待しますか?

 現在はまだ構想の段階ですが、五橋キャンパスのスタートに合わせて、新たなボランティア活動支援組織を立ち上げる話も出ています。横田さんのように、災害ボランティア以外にも「誰かのために何かしたい」という学生は多いですから。

其田 10年越しの「ボランティアセンター設置構想」の実現ですね(笑)

 はい(笑)災害ボランティアステーションとしての設立の経緯や活動は残しつつ、幅広い活動に発展させられないか、と様々な検討が行われ始めています。

其田 3キャンパスの学生、そして事務局が一堂に会し、若林区でも地域に密着した活動ができるようになる点でも、意義は大きいですよね。

松坂 今は泉と土樋に分かれて行われているミーティングが一箇所でできるようになるのは羨ましいというか。多賀城キャンパスの工学部の学生にももっと深く関わってもらえたらいいなと思います。



震災当時から、「被災者のために自分たちにできることはないか?」と考える学生たちがいた。その受け皿となり、数々の活動をサポートしてきた災害ボランティアステーションには、今なおそのマインドを受け継ぐ学生たちが集まる。
2023年、東北学院大学は、現在3つのキャンパスで学ぶ学生が一か所に集う学びの場として新たなステージを迎える。地域と連携し、活動の幅がより一層広がっていくことに、期待感が膨らむ座談会となった。

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時代に即した活動を提案しつつ、これまで受け継がれてきた想いを後輩たちに引き継ぐことが、今後鈴木さんたちに課される役割と言えるだろう