えーる
えーる
2016年9月発行の「えーるNo.1」に、「熊本へ伝える、“心の復興”」のテーマで掲載。震災から10年、えーる掲載から5年。大学公認のボランティア団体として、現在も被災地での活動を続ける「東北大学地域復興プロジェクトHARU(はる)」(以下、HARU)のメンバー、吉田さん、鈴木さん、東泉さんに、現在の活動状況や、未来に伝えたい「想い」についてお聞きしました。

被災地の今を、自分の目で確かめたい。その「想い」を胸に。被災地の今を、自分の目で確かめたい。その「想い」を胸に。

東北大学では、2020年の春以降、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、対面での課外活動を制限している(2021年1月現在)。取材時は対面での活動を自粛中ということで、オンライン取材となった。参加してくれたのは、HARUの前代表・理学部3年の吉田匡孝さん、同じく理学部3年の鈴木悠香さん、法学部2年の東泉直宏さん。2016年9月発行の「えーるNo.1」に、「熊本へ伝える、“心の復興”」のテーマで、熊本地震の支援活動に学生ボランティアとして参加した先輩の記事が掲載されていたことを伝えると、これまで連綿と続いてきたHARUの歴史に、それぞれ想いを馳せる様子だった。

HARUは、東日本大震災直後の2011年3月24日、東北地域の復興支援・地域再生を目的として設立された東北大学公認のボランティア団体だ。現在のメンバーは、1年生から4年生までが19名、大学院生が4名の計23名。吉田さんの出身地は長野県、鈴木さんは愛知県、東泉さんは栃木県と、3人とも沿岸の津波被災地から離れた県の出身ではあるが、ボランティア活動への関心もさることながら、「東北で学ぶからには、震災のことや被災地の現状を自分の目で確かめ、そして少しでも役に立ちたい」という想いが強かったと話してくれた。

HARU主催2020年12月実施新歓ツアーin宮城県山元町チラシ
HARU主催2020年12月実施新歓ツアーin宮城県山元町チラシ

被災地の復興状況に即した、様々な支援プロジェクト。被災地の復興状況に即した、様々な支援プロジェクト。

3人のHARUとの最初の出会いは、毎年4月に大学のボランティア活動支援センターが開催する合同説明会だった。HARUの歴史や活動内容の魅力に加え、先輩たちの温かな雰囲気に惹かれたと話す。震災当初、がれき撤去や避難所の運営支援等から始まった活動は、被災地の復興の進捗状況に伴い、仮設住宅に暮らす方々の心のケアから、復興公営住宅での交流活動へと変化してきたという。

2011年12月から半年程は、塩害を受けた田畑の泥かきや菜の花の種まきなどを行う「菜の花プロジェクト」を実施。2012年7月には仮設住宅の子どもたちの居場所をつくる「教育支援プロジェクト」、同年12月には津波被害を受けた山元町のいちご農家を手伝う「いちごプロジェクト」が始まり、それぞれ2~3年ほど継続。2013年に入り、仮設住宅に暮らす方々の孤立化が問題になると、足湯や手のマッサージなどを通して交流の場づくりや心のケアを行う「足湯プロジェクト」を、2015年には被災者との交流や自立支援を目的とした「あそいくプロジェクト」を開始するなど、その時々の被災地のニーズを見極めながら、必要とされる支援に取り組んできた。

より地域に根差すために「石巻部門」「山元部門」という地域部門を設置。2017年からは石巻部門と山元部門が主体となり、現在も「お茶会」や「遊び隊」、「夏祭り」、「やまもとスポーツまつり」等の企画・運営の他、地域の方を巻き込んで行う松林の再生支援活動、「ハロウィンイベント」、「コダナリエ ※1」といった地域イベントのサポートなど、その都度参加できるメンバーが現地に赴き、活動を続けているという。

※1 「山元町小平農村公園」を会場に、“心の復興”を願い、「訪れた人を笑顔に」という想いを込めて、地域の人々が手作りで届けるイルミネーションイベント。

  • Photo
    発足当時のHARU本部(2011年)
  • Photo
    山元町への災害ボランティア派遣(2011年4月)
  • Photo
    石巻スタディツアー(2017年4月)

交流を通してニーズを見つけ、自分たちにできる支援を。交流を通してニーズを見つけ、自分たちにできる支援を。

東日本大震災から5年が経過し、被災地のニーズが見えにくくなった2016年、HARUではボランティアの在り方を見直し、「ニーズは被災地に行かないとわからない」という前提のもと、被災地を定期的に訪問し、被災した方々との対話や交流を通して課題を「聞き取り」、ニーズに「気づき」、自分たちにできる支援を模索し続けるという方向へ進む。復興公営住宅では料理教室をしたいという声で「料理教室プロジェクト」を実施。2019年の冬頃から「HARUだっ茶」として定着している。

吉田さんは、「山元町での松林の植栽や管理は、地域の復興に関われている実感があり、地元の方と何気ない会話をするのも楽しい。現地の方から震災当時の話を聞ける時もあり、とてもいい経験をさせてもらっています」と話す。継続的に活動することで地元の方との人間関係が築け、様々な関連団体の方々との交流から学ぶことも多いという。東泉さんは、「実際に被災地に行き、例えば、石巻ではヘリコプターで救助された方から直接体験談を聞けたことは、特に印象深いですね。本当に貴重な経験ができました」と感慨深げ。常にボランティアを「させていただいている」という姿勢で、自分たちにできる支援をしていく、また自分たちの活動が本当に役立っているかを考え続けるという、ボランティアの基本も身についたと言う。

鈴木さんは、「ボランティアをしなければ関わることのないような方々と接し、直に話を聞くことができました。また、お茶会やイベント等の企画・運営を通して、自ら主体的に考え、会を円滑に進行する難しさなど、多くのことを学んでいます」と話す。HARUの10年におよぶ活動は、設立から5年目までの歴史が1冊の冊子にまとめられている他、ホームページ上のブログ、Twitter、Facebookにも、それぞれの活動に参加したメンバーが撮影した写真とともに、その詳細や感想がこまやかに記されている。

  • Photo
    山元町の松の植栽地(2019年11月)
  • Photo
    2019年度 大学間連携ボランティアシンポジウム
  • Photo
    山元町・コダナリエ イルミネーション(2019年12月)

被災地の人々の「想い」を、未来につなぐ責務。被災地の人々の「想い」を、未来につなぐ責務。

2020年1月以降はリモートでミーティングを行い、計画を立て、感染症予防対策に配慮しながら現地での活動やスタディツアーなどを実施。他大学との交流も、リモートで行っているという。2020年9月、WEB上で参加できる「東北大生による震災10年を考えるプロジェクト」を立ち上げ、プロジェクトリーダーを務める東泉さんは、「震災から10年という節目に、ボランティア活動の在り方や被災地との向き合い方、またこれからの日本の社会について、他のボランティア団体なども巻き込みながら、改めて考えるきっかけにしたい」と話す。

鈴木さんは、「被災地での活動を通して感じたのは、地域の人たちの温かさ。また、震災をともに乗り越えようという現地の皆さんの熱い想いを感じる一方で、通うたびに改めて、被災した方々の哀しみの深さを痛感しました。就職して東北を離れることになっても、活動を通して知った震災や被災地のこと、また直に接した被災者の方々の『想い』を、多くの人に伝え続けていきたい」と話す。最後に、「被災地に来なければ、絶対にわからないことがたくさんある。震災を知らない世代も含めた多くの方に、被災地に実際に足を運び、自分の目で見て、感じて欲しい。そして自分たちが学び得た震災の教訓を、他の地域へ、また次の世代へ、つないでいきたい」と話してくれた。