えーる
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2019年10月発行の「えーるNo.12」に、「みんなが集まり、支え合う。Open Villageノキシタ~つながりと役割で健康になるまちづくり~」のテーマで掲載。ノキシタの取り組みは、同年11月に開催された「仙台防災未来フォーラム」でも発表され、大きな話題を呼びました。ノキシタの加藤清也村長に、えーる掲載後の反響や、超高齢社会を見据えた取り組み、そして地域に暮らす被災者の声を踏まえた、災害にも強い「健康寿命を延ばすまちづくり」への「想い」をお聞きしました。

世代や障害を超えて、多様な人々が集う『居場所』世代や障害を超えて、多様な人々が集う『居場所』

「えーるNo.12」を手に、「掲載後、障害を持つ方や子育て中の主婦の方々からも、予想外に大きな反響をいただいたんですよ」と話す、加藤村長。
「Open Villageノキシタ」は、2019年5月18日、宮城野区田子西地区にオープンした複合型共生施設。人が集まるコレクティブスペース「エンガワ」を中心に、障害者就労支援カフェ「オリーブの小路」、シャロームの杜ほいくえん、障害者サポートセンターTagomaru(たごまる)が円形に建ち並び、ひとつのまちを形成している。取材当日は、「エンガワ」で料理教室が開催されており、小さなお子さんを連れた主婦の方々で賑わうその横で、重度の知的障害を持つノキシタのボランティアスタッフ・加藤宙歩(ひろむ)君と、近所に住む高齢のご婦人が会話を楽しんでいた。
「高齢者や障害者だけではなく、子育てに不安を抱えている主婦の方々も、こうした自分の居場所や他人との交流の場を強く求めているというのは、新しい発見でしたね」と、加藤村長。「エンガワ」は、多様な人々の交流の場としてだけではなく、「さをり織り」教室をはじめ、簡単ヨガ体操やアロマクラフト教室、ビューティーハンドケアなどの多彩な催しの会場としても、活用される機会がますます増えているという。

「えーるNo.12」に掲載された当時を振り返る加藤村長
「えーるNo.12」に掲載された当時を振り返る加藤村長
さまざまな人々で賑わう、コレクティブスペース「エンガワ」
さまざまな人々で賑わう、コレクティブスペース「エンガワ」

高齢化社会のモデルとなる、新しいまちづくり。高齢化社会のモデルとなる、新しいまちづくり。

加藤村長は、公共コンサルタント事業や防災環境事業等をグローバルに展開する国際航業株式会社(以下、国際航業)の技術士として、防災や復興計画に携わってきた。同社は、2009年より宮城野区田子西の土地区画整理事業を進めていたが、2011年に東日本大震災が発生。仙台市の震災復興計画にともない、田子西地区の復興公営住宅街と戸建住宅街を中心とする、復興に向けた未来型のまちづくり、「グリーン・コミュニティ田子西」のプロジェクトがスタートしたという。
「まちに転居してきた方々の声を聞くと、家族やそれまで住んでいた地域での人とのつながりを失い、人と会話する機会が激減している方が多いことがわかりました。家に閉じこもっていると、やがて要介護や認知症につながる恐れがあります。こうした状況を踏まえ、少子高齢社会における新しいまちづくりの在り方を模索する中で、予防医学の観点からも、『多様な人が集まり、交流できる居場所』が必要だと考えたのです」と、加藤村長は話す。
国際航業は2018年、高齢化社会のモデルとなるまちづくりを目指し、100%出資子会社の株式会社AiNest(以下、アイネスト)を設立。保育園を除き、補助金に頼らず自己資金で施設を整備したことで、既存制度に捉われず、さまざまな取り組みを試行できる強みがある。2019年にアイネストが開業した複合型共生施設「ノキシタ」は、高齢者・障害者・子どもたちが、互いの特性を理解しながらともに支えあい、一緒に活動することで、高齢者の健康寿命を延ばすなどの社会課題解決につなげることを目的としている。

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    お客様や料理教室の参加者で賑わう、「ノキシタ」の「エンガワ」
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    重度の知的障害を持つボランティアスタッフとお客様、それを支えるスタッフの方たち
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    障害者就労支援カフェ「オリーブの小路」
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    田子西地区の航空写真。中央が「ノキシタ」、道路を挟んだ右が復興公営住宅
    写真提供:国際航業株式会社

「つながり」と「役割」で、健康寿命を延ばし、災害弱者を減らす。「つながり」と「役割」で、健康寿命を延ばし、災害弱者を減らす。

「『エンガワ』では、重度の知的障害を持つ宙歩君が、遊びに来た方々をもてなします。彼に会うのを楽しみに、移動支援を受けながらここに通っていたご高齢の方は、通い始めて4ヶ月で、なんと30分も自分の足で歩けるようになりました。社会に支えられる立場と考えられがちな重度知的障害者が、高齢者の健康寿命を支える役割を実践したのです」と、加藤村長。こうした成果は、2019年の「仙台防災未来フォーラム」において「『つながり』と『役割』で災害弱者を減らすまちづくり」のテーマで発表された。
「この話をすると、皆さん、とても驚かれるのですが、要介護や認知症を予防し、健康寿命を延ばすために最も効果的なのは、『人との交流』なのです」と話す、加藤村長。JAGES(日本老年学的評価研究機構)※1の研究により、他者との交流が少ない高齢者は、要介護や認知症になりやすいことがわかっており、ノキシタではJAGESと、健康⻑寿社会の実現に向けた新しいまちづくりについて共同研究を行った。「高齢者や障害者といった災害弱者を、災害時にどのようにサポートするかを考えることも必要ですが、災害弱者にならないための社会的な取り組みも防災対策として大切です」と、加藤村⻑。
現在の医療制度や介護制度などの既存制度、現状の社会的な仕組みなどを前提に考えるのではなく、少子高齢社会や防災など複数の観点から、「健康寿命を延ばすまちづくり」という理想的な将来の姿(ゴール)を描き、そこから逆算して作り上げたところが、「ノキシタ」の大きな特徴だと話す。また、株式会社公共経営・社会戦略研究所※2とともに、ノキシタが果たす社会的インパクト評価を行うなど、SDGs※3やESG※4も意識しながら取り組んでいるという。
現在は、子育て中のお母さんたちの居場所としても利用されるケースが増えている「ノキシタ」。2021年3月の仙台防災未来フォーラム2021では、baby&familyサロンsugar代表の佐藤彩那さん(ノキシタ非常勤スタッフ)とともに、子育て世代の居場所をテーマとした講演と出展を予定している。

※1 健康長寿社会を目指した予防政策の科学的な基盤づくりを目的に研究活動を実施、2018年に一般社団法人日本老年学的評価研究機構を設立。
※2 明治大学インキュベーションセンターを拠点に、2009 年に大学の枠を超えた「大学発シンクタンク」として設立。
※3 Sustainable Development Goals の略称で、国連の持続可能な開発のための国際目標。
※4 Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字を取った言葉で、企業経営や成⻑においてこれらの観点からの配慮が必要という考え方のこと。

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    「エンガワ」で、スタッフたちとの交流を楽しむお客様
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    「ノキシタ」の中央の丘で遊ぶ、保育園の子どもたち
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    2019年11月に開催された仙台防災未来フォーラムで「さをり織り」を体験する郡市長
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    「エンガワ」で開催された料理教室の様子

「健康になるまちづくり」で、日本の未来を支える。「健康になるまちづくり」で、日本の未来を支える。

「超高齢化社会を迎え、年金、医療、介護などの社会保障制度の財源確保が大きな問題になっています。しかし、人と交流することで要介護や認知症を予防し、高齢者の健康寿命を延ばすことができれば、社会保障費の削減が可能になります」と、加藤村長。こうした「ノキシタ」の取り組みは、厚生労働省のソーシャル・インパクト・ボンド※5のモデル事業(2017年度計画策定型)に選定され、国際航業を中心に、立場の異なる企業や大学が連携して、オープンイノベーションやコレクティブインパクト※6を実践しているという。
 「『ノキシタ』では、自分のやり方で、自分の好きなように、楽しみながら元気になってもらえればいいのです。その結果として、健康寿命を延ばすことができ、災害時の自力避難が可能になり、社会保障費も削減できるなど、複合的な効果をあげることを、私たちは目指しています。ぜひ多くの方に、ここで自分なりの居場所や楽しみ方を見つけ、高齢の方には特に元気になって欲しいですね。そして『ノキシタ』の仕組みを、日本の将来を支える新しいモデルとして確立し、社会に広めていきたいと考えています」と、力強く話してくれた。

※5 行政や民間事業者及び資金提供者等が連携して、社会問題の解決を目指す成果志向の取り組み。
※6 さまざまなプレイヤーが共同で社会課題解決に取り組むアプローチ。

「ノキシタ」の取り組みについて、熱く語る加藤村長
「ノキシタ」の取り組みについて、熱く語る加藤村長