えーる
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2019年7月発行の「えーるNo.11」に「防災にいかす私たちのアイディア~段ボール製の避難所用授乳室『HONEY ROOM』~」のテーマで掲載。東北工業大学の学生たちが発案した授乳室は「仙台防災未来フォーラム2019」の会場に展示され、新聞・ニュースに取り上げられるなど、大きな反響を呼びました。学内でプロジェクトを進めてきた石井敏教授に、大学としての防災・減災や復興への取り組みと、学生たちの未来に馳せる「想い」についてお聞きしました。

避難所で必要とされる「授乳室」に着目。避難所で必要とされる「授乳室」に着目。

「段ボール製の避難所用授乳室『HONEY ROOM(ハニールーム)』の記事が掲載された『えーるNo.11』は好評で、本学のホームページにもアップしているんですよ」と、当時を振り返る石井教授。
2018年11月、仙台市から東北工業大学建築学科へ、「仙台防災未来フォーラム2019」に向けた「避難所等で活用できる段ボール製品」を提案するプロジェクトへの協力依頼があり、応募のあった16チームの作品の中から最優秀賞に選ばれたのが「HONEY ROOM」。発案したのは、当時、建築学科の3年生だった浅野陽菜(はるな)さん、髙泉沙知恵さん、鈴木楓由(ふゆ)さん。東日本大震災当時、自身も被災者として仕切りのない避難所で、母親たちが周囲の視線を気にしながら授乳していた事を知り、授乳室のアイディアを思いついたという。

「『HONEY ROOM』の『避難所に必要とされる授乳室』というコンセプトは、女性への配慮に着目した点で、フォーラムのテーマ『主役はマルチステークホルダー※1』にふさわしく、段ボールで製品化しやすい点でも、プロジェクトメンバーの一員であり、ダンボール製品の製作を行う今野梱包さんや仙台市、学内の審査委員から高い評価が集まりました。『人の暮らしに役立つ』という点でも、非常に優れていたと思います」。

※1 行政・企業・市民団体・研究機関などすべての関係者や関係機関

えーるに掲載された当時を振り返る石井敏教授
えーるに掲載された当時を振り返る石井敏教授
段ボール製の避難所用授乳室「HONEY ROOM」の試作模型
段ボール製の避難所用授乳室「HONEY ROOM」の試作模型

防災・減災を学び、自分のアイディアを形にする。防災・減災を学び、自分のアイディアを形にする。

授乳室を発案した学生たちはプロジェクトへの応募に際し、形状を円形から正方形へ、さらに圧迫感の少ない六角形へと発展させ、「HONEY ROOM」と命名。今野梱包㈱が、この試作模型をもとに強化段ボールで実物大の授乳室を製作した。同社は、震災時に避難所や仮設校舎に段ボール製の机や棚を多数提供した実績を持ち、製作過程の打ち合わせでは、実用性を高める様々なアドバイスをいただいたという。
「企業との協働で、自分たちのアイディアが現実に人に使われる形になっていくプロセスは、建築を学ぶ学生にとって、とても貴重な経験になります。フォーラムの会場では、たくさんの来場者から、『落ち着いて授乳できる』、『震災の時も、こういう授乳室があったら良かった』などのご意見をいただきました。フォーラムの後もNHKの震災特集番組などに取り上げられ、この授乳室がこれほど社会に求められている、価値のあるものだという事を、学生たちも改めて実感したようです」。

フォーラム後は「HONEY ROOM」の製品化に向け、大学の研究支援センターのサポートを受けながら、学生たち自身でデザインの意匠権※2を取得。現在は、今野梱包㈱から販売していく取り組みを進めているという。「発案した学生たちは、2020年に卒業してそれぞれ建築関係の仕事に就いています。授乳室の意匠権を自分たちで登録した経験は、彼女たちがこれから仕事をしていく上でも大いに役立つと思います」と、石井教授は話す。

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    「仙台防災未来フォーラム2019」で展示された段ボール製の避難所用授乳室「HONEY ROOM」
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    「HONEY ROOM」の意匠登録証を手にする学生たち

防災・減災から復興まで、東北の未来に貢献。防災・減災から復興まで、東北の未来に貢献。

建築学科では、震災直後から「復興支援室」を立ち上げ、牡鹿半島や塩竃市浦戸諸島など、行政の目が届きにくい地域のコミュニティ再生を目的とした支援活動を開始。こうした活動はもちろん、災害に強い構造や施設、地域の復興など、それぞれの専門分野における実践的な教育が現在も継続して行われている。2019年秋、大学では「持続可能な未来の東北をつくる『東北SDGs研究実践拠点』」を設立。その一つである防災・減災技術研究拠点では「ダンパー(写真参照)」という免震構造をはじめ、長年の実績と蓄積に基づく様々な研究を推進している。
大学で学生たちは、建築という「人の暮らしを支える空間づくり」を総合的に学んでいる。建物は「人の命を守るシェルター」でもあり、「災害と建築」は切り離せない関係にあると石井教授は考える。「仙台には、東日本大震災をはじめとする多くの災害の経験から学び得た、世界的にも類のない高い耐震技術や復興に関わる建築学の蓄積があります。また、被災地により近い場所で、災害対策や復興に向き合って建築を学べる環境があります。学生たちには、こうした『仙台で建築学を学ぶ意義』を深く胸に刻んで、社会へ出てもらいたいと考えています」と石井教授は話す。

東北工業大学建築学科は、1966年の創立以来、地域に貢献できる建築技術者・設計者を育成し、多くの卒業生を輩出してきた。2020年には、それまでの工学部建築学科を発展させ、「建築学部」を新設している。「本学の学生は卒業後、約半数が東北に就職します。外へ出る学生には、ここでの経験を社会に伝える役割を持ってほしい、そして地元に就職する学生には、この仙台にいるからこそわかる、被災した地域の現在の人の暮らしやまちの在り方など、今なお必要とされている『目に見えない復興』に貢献する意識を持って、活躍していってほしいですね」

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    校舎内に設置された免震構造「ダンパー」。東日本大震災時は、
    この「ダンパー」が築40年の校舎を守り抜いた。
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    2011年から2013年にわたる建築学科の支援活動をまとめた
    「東日本大震災時の活動記録と復興支援」の冊子
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    「東北工業大学とつくる
    持続可能な未来の東北」の
    パンフレット

地域の未来にかける、学生たちの「想い」。地域の未来にかける、学生たちの「想い」。

現在学んでいる学生は、ちょうど小中学生の頃に大震災を身近に体験した世代だ。建築を学び、自分が生まれ育った地域の復興に貢献したい、という強い「想い」を持って入学してきている学生も多いという。「卒業論文には、被災した方の暮らしを追う研究、まちの防災・減災対策に着目した研究、卒業制作には、被災地の復興に必要な施設などが、今なお取り上げられています。それは学生が本学での『学び』を通して、今も震災としっかり向き合っているということに他ならないと思います」

震災直後は、そこで起きたことをしっかり見つめ、復旧していくことが最優先だった。しかし震災から10年を経て、今は過去の経験を踏まえて未来に起こるかもしれない災害を予測し、建築やまちの在り方、また被災した地域の人々のこれからの暮らしを考えていく段階に入っている。
「学生たちがこの仙台だからこそ得られた『学び』をいかし、新たな未来を切り拓いていってくれることを、心から期待しています」と、石井教授は力強く話してくれた。

地域の未来をつくる学生への想いを熱く語る石井教授
地域の未来をつくる学生への想いを熱く語る石井教授