仙台市では、快適で防災力の高い都市「防災環境都市づくり」を進めている。市内の小学校で実施する段ボールジオラマを使った防災授業もその一環だ。今回は泉区の市名坂小学校で行われた授業の様子を紹介する。
▲学校周辺の地形を説明する防災ジオラマ推進ネットワークの上島洋代表
▲危険と思われる場所に付箋を貼っていく子どもたち
市名坂小学校は防災教育に力を入れており、今年度は震災遺構の見学、学校の防災設備について学ぶなど独自の授業に取り組んでいる。今回は仙台市(防災環境都市推進室)が学校の要望を受け、防災ジオラマ推進ネットワーク(横浜市)に協力を依頼した。東日本大震災の年に生まれた5年生を対象に、地域の地形を知り、災害から身を守る術を学んでほしいと防災について考えるワークショップ形式の授業を実施した。
冒頭は同ネットワークの上島洋代表による講義。学区全体の地図を見ながら標高の高い場所と低い場所を確認し、この地域は七北田川によって削られた谷のような地形であることを学んだ。続いて、グループに分かれてジオラマを作る。用意された段ボールを重ねていくと、縮尺1300分の1の立体的なジオラマが完成した。「いつも遊んでるの、ここだよね?」「私の家もあった!」などと賑やかな声があがり、丘陵部分と河川敷の標高差を手で触って確認する子も。
▲学校周辺の地形を説明する防災ジオラマ推進ネットワークの上島洋代表
できあがったジオラマを全員で囲み、地域の地形を体感的に捉えたところで全員に黄色の付箋が配られた。それぞれ自分の家の場所にしるしをつけていく。続いて上島さんがピンク色の付箋を配り「災害の危険があると思う場所にしるしを貼ってみよう」と声をかけた。
初めは戸惑っていた子どもたちが、話し合いながらピンクの付箋を貼っていく。「ここは2つの川が合流して、はさまれているから洪水が起きそう」「川のそばで標高が低い場所は危険だよね」「うちの裏の小さい川があふれそうになって、家族で避難したことがあるよ」「東日本大震災のとき、この崖がくずれたって聞いた」「大雨の後でここを通ったら、少し土砂崩れしてブルーシートで囲っていたよ」。地形から危険を予想したり、家族に聞いた話や自分の目で見たことを共有したりして、手作りのジオラマができあがっていく。
▲危険と思われる場所に付箋を貼っていく子どもたち
上島さんが「市名坂小学校に付箋を貼っている人がいるね」と気が付いた。一人の児童が「ハザードマップで浸水エリアになっているから。家族で調べました」と答えると、「よく知ってるね!後で教えようと思っていたことを先に言われちゃったなぁ」と苦笑い。ここで上島さんから、小学校は川から近い場所にあり、川との標高差があまりないことからハザードマップで洪水浸水想定区域とされていると説明された。付け加えて「数百年に一度といわれる大雨が降るのは、明日かもしれない。地球温暖化などの影響で昔より大雨が降りやすくなっていることを知っておいてください」と解説があった。
▲災害時に危険な場所と安全な場所を確認
最後に、実際のハザードマップがディスプレイに映し出され、自分たちで作ったジオラマと見比べておさらい。自分たちの予想と重なる部分と違っている部分を確認した。上島さんが、水害には洪水による浸水の他に、雨水の排水が追いつかずに起きる「内水はんらん」があることも説明した。
▲災害時に危険な場所と安全な場所を確認
「地形を知っていると、災害時どこへ逃げれば安全か、近づいてはいけない場所はどこかが分かり自分の身を守れます」と上島さん。さらに「日頃から危険な場所がないか観察すること、過去に起きた災害を覚えておくこと、他の人に伝えることはとても大事。皆さんはそれができていて感心しました」と締めくくった。
2時間の授業を終えて、「学区に小さな川がこんなにあるとは知らなかった。ジオラマの地図は分かりやすい」と柴山琴美さん。東馬凜乃(とうまりの)さんは「家の近くに川があっても洪水になると考えたことがなかった。家族にも教えたい」。吉元暖(ほのか)さんも「洪水も土砂崩れも危ない。避難情報が出たら避難しないといけないと思った」と話した。
担任で防災主任の山岸先生は「ジオラマは平面のハザードマップより地形を理解しやすく、地形と災害の関係を学ぶ貴重な機会になった。命を守る意識を高め、将来は地域の防災の担い手になってほしい」と話した。
家庭で備えよう・考えよう
・地域で水害や土砂崩れの起きやすい場所の調査
・ハザードマップを見ながら地域を探索
・浸水の危険がある場合の避難場所を家族と話し合おう