仙台市では、快適で防災力の高い都市「防災環境都市づくり」を進めている。今回は東日本大震災の復興事業に深く関わり、現在の仙台市を「スーパー防災都市」と評する建設業・深松組(仙台市青葉区荒巻)の深松努代表取締役社長(一般社団法人仙台建設業協会会長)にお話を伺った。
▲仙台市の復興や安心安全な街づくりについて熱く語る深松組の深松努社長
「建物倒壊がほとんど生じなかったのに、津波によって多くの方が犠牲になってしまったことが悔しかった」と語り始めた深松社長。東日本大震災が起きた2011年3月11日、深松組は若林区藤塚で堤防工事をしていた。作業員は直ちに避難をして無事だったが、地区の住民の多くが犠牲となった。
▲仙台市の復興や安心安全な街づくりについて熱く語る深松組の深松努社長
深松社長は当時、仙台建設業協会(仙建協)の副会長だった。土木担当としてがれき撤去の責任者を任され、市と協力して沿岸部一帯のがれきの円滑な処理を実行した。
復興事業に携わる中で、深松社長は安全な仙台の街をつくるため、多くの行動を起こした。その一つが「協定」の締結だ。仙建協は、14年に市と避難所の応急危険度判定に関する協定を結び、災害直後の避難所の速やかな安全確認ができるようにした。また、18年には浜松建設業協会(浜松市)と災害援助協定を締結し、互いに災害発生時に人員や機材を派遣して初動対応に当たれるようにした。
深松社長が協定を重視するのは、「顔の見える関係」の構築にある。「協定を結べば、年に一度は顔を合わせる。顔を知っておけば、有事の際にスムーズに対応できる」と語る。
復興を着々と進めてきた仙台の街を、深松社長は「スーパー防災都市」と呼ぶ。大津波を経験し、復興を成し遂げた100万都市は世界でも類を見ないという。「仙台市は教訓の山。当時の苦労話が他の地域で生きてくる」と強調する。さらに「全国共通の教訓」として、食料の備蓄や車へのこまめな給油、ハザードマップで家族との待ち合わせ場所を決めておくことなどを勧めている。
▲昨年12月に竣工した深松組の新本社屋 災害時には地域住民の避難施設にも
▲複合観光施設「アクアイグニス仙台」 地中熱や排気熱の再利用により環境や省エネにも貢献している
深松組が藤塚地区で震災を経験してから11年。同社は複合観光施設「アクアイグニス仙台」を手がけ、オープンにこぎ着けた。アクアイグニス仙台の温泉棟には地上15メートルの展望デッキがあり、津波避難の役割も果たしている。施設は地中熱を温泉の加温に利用するとともに、施設内の排気熱を床暖房に再利用するなど、省エネ設備も充実している。
▲複合観光施設「アクアイグニス仙台」 地中熱や排気熱の再利用により環境や省エネにも貢献している
22年12月に竣工した同社の新本社屋(青葉区荒巻)にも震災の教訓を盛り込む。鉄筋コンクリート4階建てで免震構造を採用。太陽光発電や十分な備蓄を用意し、災害時は地域住民の避難も受け入れる方針だ。「町内会長の方にも来てもらって、顔の見える関係をつくっている」と深松社長は胸を張る。
▲昨年12月に竣工した深松組の新本社屋 災害時には地域住民の避難施設にも
「企業の貢献が増えると、いい街が形成される。子どもたちに今よりもいい仙台を残したい」。震災の教訓を生かし、発展する仙台を深松社長は見据えている。
家庭で備えよう・考えよう
・食料は1週間分の備蓄を
・車の燃料は4分の3になったら満タンに
・ハザードマップを見て避難時の家族との待ち合わせ場所を決めよう