仙台市の観光スポットを訪れた際に新たに発見した、復興や防災についての気付きを紹介しています。
仙台の大学に通う木下諄(きのした じゅん)さんと浅野目崇浩(あさのめ たかひろ)さん。街なかでよく見かけるレトロなデザインのバス「るーぷる仙台」が気になっていました。調べてみると、市内の観光スポットを巡る循環バスで、使いやすい一日乗車券があることが分かりました。「面白そう、乗ってみようよ!」と、始発の仙台駅前へ。
仙台駅前から乗り込んだバスは青葉通りを西へ進み、土井晩翠ゆかりの晩翠草堂から霊屋橋で広瀬川を渡って、伊達政宗公の霊廟・瑞鳳殿前へ。また広瀬川を渡り、西公園を右手に眺めつつさらに大橋を超えます。
「えっ、また広瀬川!何回目?」と木下さんが驚くと、「すごく蛇行しているからね」と地元出身で広瀬川になじみのある浅野目さん。千葉県出身の木下さんは「街なかに大きくてきれいな川が流れているのが、仙台の魅力だね」。バスはぐいぐいと青葉山を上って東北大キャンパスを通り過ぎ、森の中へ。どこへ行くんだろう――と少々不安になった頃に着いたのは「仙台城跡」バス停。「有名な騎馬像のあるところだよね、降りよう」。
▲外観も楽しい仙台市観光シティループバス「るーぷる仙台」
仙台城は、仙台藩初代藩主・伊達政宗公によって築かれました。政宗公が目を付けたのは、広瀬川と断崖が自然の要塞として敵の侵入を防ぐ地形の利。また舟運が主流の時代に、あえて河口から離れた河岸段丘上に城下町をつくったのは、水害のリスクを避けるためでした。当時から防災の意識をもってまちづくりに臨んでいたことがわかります。
▲仙台の街並みを見下ろす政宗公騎馬像
かつての城下町から仙台平野全体、太平洋までを見わたすこの場所に、今は「伊達政宗公騎馬像」が凛々しく立っています。想像以上の大きさに圧倒され、見上げる二人。「ここから見下ろして、まちづくりを構想したんだろうね」「防災のことも考えたまちづくりになっていると聞いたことがあるよ」。
眼下の景色にビルや道路がなかったら――とはるか昔の風景を想像していると、木下さんがスマホをかざしてうれしそうにしています。「VRで昔の風景が見えるよ」「すごい!これ面白い!」
「伊達な歴史の新体験 VR体験」は、スマホでQRコードを読み取ると昔の街並みや歴史的建造物の再現VR(バーチャルリアリティ)が見られるサービス。政宗公が居城とした仙台城の建物も見ることができます。
▲政宗公時代の城下町が広がった風景がスマートフォンを通して見られる
るーぷる仙台は20分おきの運行なので、時間を確認して再びバス停へ。「小学校の校外学習で来たこともあったけど、今日は興味深かったな」と浅野目さんが言うと、木下さんから「ここは夜景も素敵だよ」とプチ情報。「えっ、知らなかった!今度は夜に来てみよう」。
車窓から市街地のビル群を眺めながら坂を下り、バスは街なかを目指します。「そういえば伊達政宗公の時代にも地震と大津波があったんだよね」と木下さん。「高い建物がなかったから、津波はずっと奥まできたかも」と浅野目さんが考え込みます。
そのうちにバスは定禅寺通りへ。「仙台にきて感動したことの一つがこのケヤキ並木だよ」と木下さん。「メディアテークの洗練されたデザインが映えるね、降りてみようか」。
▲メディアテークは全面ガラス張りの外観が特徴
バス停「メディアテーク前」で降りた二人。せんだいメディアテークは市民図書館やカフェ、ギャラリーなどが入る複合施設で、建築家・伊東豊雄氏の代表作品でもあります。館内案内を見て二人が気になったのは「わすれン!」。「3がつ11にちをわすれないためにセンター」の略称とあり、東日本大震災に関係する場所のよう。行ってみることにしました。
▲メディアテーク2階のわすれン!資料室
スタッフの佐藤友理さんが、「『わすれン!』は震災に向き合いともに考えるために立ち上げられたプロジェクトの名称です」と案内してくれました。
ここでは専門家や一般市民などさまざまな立場の人が、写真や映像、音声、文章などで震災に関する記録を発信しています。被災地を定点観測した膨大な数の写真、個人が撮った映像をまとめたDVD、宮城県内外の人が書き残した「あの日」の記憶など。生活者の視点で切り取った多くの記録が集められています。
▲個人の声や写真など多くの記録に見入る二人
「定点写真を撮ろうとしても、地域全体がかさ上げされ同じ角度で撮れない場所もあります」と聞いて、木下さんが「何のためにかさ上げしたのですか」と質問。佐藤さんから「未来の津波から街を守るためです。新しい防波堤建築のほか、地面をかさ上げする方法をとっている街も多くあります」と説明がありました。
「いろいろな復興があるんですね」と記録に見入る木下さん。「インターネットで見る画像より、手に取れる写真のほうが断然リアル。見られてよかった」と話しました。
思いがけず、防災の学びや被災地の住民の思いに触れた二人。胸がいっぱいになり「もうちょっと話したい気分。コーヒーでも飲もうよ」と1階のカフェへ。
仙台市出身で震災時は小学3年生だった浅野目さんは「当時は津波のニュースが怖くて見たくなかったし、その後も積極的に見ようとはしてこなかった」と打ち明けました。「でも今日は本当に来てよかった。街なかにこんな施設があることを初めて知ったし、これからもっと知りたいと思う」。木下さんは「一般の人がとった写真や、手書きの記録が、人の心に直球で届くことがよく分かった。」
ケヤキ並木をくぐってやってきた「るーぷる仙台」に乗りこむ二人。「県外の友達が遊びに来たらまた一緒に乗ろうかな」「一日遊べるね。今度は違うバス停で降りてみよう」。二人の仙台の街の遊び方が、一つ増えたようです。
▲「るーぷる仙台」は仙台駅を起点に1周約70分で循環する。