仙台市の観光スポットを訪れた際に新たに発見した、復興や防災についての気付きを紹介しています。
仙台の大学生、鈴木僚月(すずきともる)さんと渡邊まつり(わたなべまつり)さんは、2人で仙台にゆかりのある有名人の話をしていました。「フィギュアスケート選手の羽生結弦さんや荒川静香さんは有名だね」「2人の功績をたたえるモニュメントがあるって聞いたことがあるよ。地下鉄の国際センター駅の前にあるんだって。一度見に行きたいな!」。
▲地下鉄仙台駅から5分で到着
そんな2人が訪れたのは、仙台市地下鉄東西線の「国際センター」駅。
同駅は青葉山に位置し、駅舎の2階には多目的スペースや屋外テラス、カフェが入った通称「青葉の風テラス」があり、開放的な雰囲気が特徴です。改札を出て南出入口から外へ出た2人の目に飛び込んできたのは、仙台出身のフィギュアスケーター・羽生結弦さんと荒川静香さんのガラスのモニュメント。存在は知っていたものの、間近に見るのは2人とも初めてです。
▲国際センター駅前の羽生結弦さんと荒川静香さんのモニュメント
「仙台出身の世界的なフィギュアスケーターが2人もいるって考えてみるとすごいことだね」「そういえば再来年、長町のゼビオアリーナにスケートリンクが整備されるってニュースもつい最近見たよ」とスケートの話題で盛り上がります。
そこから「せっかくだから、国際センターも見学してみようよ」と、仙台国際センターへ。
1991年にできた「会議棟」と2015年にできた「展示棟」から構成される仙台国際センターは、6,000人規模の大規模催事が可能な施設です。これまでもさまざまなコンベンションや国際会議、イベントが開かれてきました。また、館内には「多文化共生センター」があり、外国人の方向けの生活関連情報を多言語で提供しています。同センターでは生活相談や、多文化共生の地域づくりに関する相談にも対応しています。
▲仙台国際センター会議棟の正面玄関
施設の中で、2人は第3回国連防災世界会議開催の記念プレートを見つけました。
「国連防災世界会議」は、国際的な防災戦略について議論する国際連合主催の会議。2015年3月に仙台で開催された第3回国連防災世界会議には、185カ国から6,500人以上が参加しました。国内で開催された国連関係の国際会議としては最大級の規模です。職員の方から「会議の成果文書として、新たな国際的な防災の取組指針となる『仙台防災枠組』が採択されたんですよ」と聞いた2人。
「2015年というと今から8年前。中学生のころであまり記憶にないけれど、世界的に重要な会議がここで開かれたんですね」と驚いた様子。
▲2015年の第3回国連防災世界会議開催を記念したプレート
「仙台と防災の関わりについてもっと知りたい」という気持ちが湧いてきた2人は、ここから地下鉄で移動できる青葉山の「東北大学災害科学国際研究所」へ行ってみることにしました。
再び地下鉄東西線に乗り込み2駅先の「青葉山」駅で下車。「南1」出口から3分ほど歩いて「東北大学災害科学国際研究所(以下、災害研)」に到着しました。
災害研は、東日本大震災の約1年後に設立された研究組織です。災害研のミッションは、震災の経験と教訓を踏まえ、災害被災者の助けとなること、仙台防災枠組をはじめとする国際アジェンダ策定に貢献し、その実装を推進して世界の災害リスクの減少に貢献すること、また、いろいろな機関と連携して災害科学の知を創造・蓄積・発信・実践していくことです。広報担当の中鉢奈津子さんが2人を迎えてくれました。
「災害研の特徴は、工学、理学、人文・社会科学、医学、防災実践の研究者が協力して世界最先端の研究を推進していることです。被災した方々と社会へ実践的に貢献することも目指しています」と中鉢さん。
災害研の1階は災害研究に関する資料やパネルの常設展になっており、だれでも無料で閲覧できます。そこに展示されていたオレンジ色の球体に2人の目が留まりました。
「これは深海精密トランスポンダという機器。海底に沈めて海底の変動を調べるのが目的です」と中鉢さん。「2011年より前にこの機器を用いた海底地殻変動観測システムを実用化し、測定を開始していたおかげで、2011年の巨大地震のときに陸側のプレートが最大で31メートルも東にずれ動いたことなどを、世界で初めて捉えることができました」。「ええっ、31メートルも?!」と2人はびっくり。
▲災害研究に関する資料や機器を見学できる
ほかには、災害派遣医療チーム(DMAT)の制服、災害調査時に着用するビブスや帽子などの展示もありました。
「この帽子にもついている災害研のロゴマーク、180度ひっくり返すと…何かわかりますか?」「あっ、災害の『災』の字?」「そうです。災い転じて福となすという意味が込められたデザインです。日本は先進国では類を見ないほど自然災害が多く、そのつらい経験を世界でも先進的な防災につなげてきました。我々も『起こったことを繰り返さないようにしよう』と、過去から学んで未来へ生かしていくことを続けていきたいと思っています」。
中鉢さんの言葉に2人は深く頷きました。
▲災害研では1階での常設展示スペースのほか、シンポジウムや企画展なども随時開催している
「仙台は世界の中でも防災の研究や取り組みが進んでいる都市だってことがよく分かったね。自分たちも仙台防災枠組に対して貢献できることがありそう。防災の取り組みについてもっと知りたくなった」と鈴木さんが話すと、渡邊さんも「実際の施設を見て、いろんな方々の努力や協力、連携があって防災の基盤が整えられてきたってことが分かっていい経験になった。地域によって差もあるし、こうやって研究したことを発信することも大事なんだね」。
東日本大震災を経験した都市としての教訓を仙台が世界へ発信する意義、そして自身の生活と防災についてあらためて考えた大切な一日になりました。